星空の解放日
麦星すばる
処分
それから|十蟹《とがに》先生のところへ行って、これまでの証拠を提出する。
生徒によるものではあるけれどストーカーに盗撮ということで
お母さん、|湊《みなと》くん、めりの先輩と、|冬真《とうま》先輩、ご両親が別々の部屋に呼ばれる。
お母さんは慌てて私のもとへ駆け寄り私を抱きしめる。
「ほのか!!鞄隠されたと思えば男の生徒につけられたり写真撮られたりしたって本当!?大丈夫!?」
「大丈夫。|湊《みなと》くんとめりの先輩が助けてくれて|十蟹《とがに》先生に証拠も提出してくれたの」
お母さんは「あら、|湊《みなと》くんが?本当に?」と安心した様子だった。
|湊《みなと》くんは一礼する。
隣りにいためりの先輩がお母さんに挨拶をする。
「初めまして。|鈴原《すずはら》です。いつもお世話になっております」
「まーー!小っちゃくて可愛いわねえ!」
「お母さん!先輩!先輩だから!」
確かにめりの先輩は見た目は小柄で可愛い。
実際は、ハキハキしていて頼れる先輩。
|湊《みなと》くんはスマートフォンで誰かに電話をしているようだ。
「もしもし、母さん。ちょっといいかな。|稲荷《いなり》さん助けてあげられない?」
母さんってことは|美奈子《みなこ》さんに電話してるのかな?
|湊《みなと》くんは|美奈子《みなこ》さんに、事情を説明している。
会話が進むと、全員に会話が聞こえるようにスピーカーモードに切り替える。
「なるほどー。みなとんと似た感じか。
まずほのかちゃんが診察を望んでいるか聞いて初回は親御さんと来てもらえれば」
|美奈子《みなこ》さんの明るく優しい声が響く。
でも診察ってどういうこと・・?
「|湊《みなと》くんのお母様ってお医者様だったの!?ほのか、もしかして知ってた…?」
「えっと…お医者さんとは聞いてたんだけど何科とかは分からないよ?」
そういえばお母さんには|美奈子《みなこ》さんがお医者さんって話してなかったな。
でも医者としか言われてないんだよね・・・。
「どうもー!瀬名メンタルクリニックの瀬名|美奈子《みなこ》ですー。
今回大丈夫そうでもこの学校の生徒さんも診てますので遠慮なくご相談くださいねえ」
「精神科・・・そうねえ。お父さんも臨床心理士だけど大人の相談が専門だし
何かあったら|美奈子《みなこ》先生に相談したら?スクールカウンセラーさんも男の人でしょ?」
私のお父さんは臨床心理士として働いている。
子供ではなくてお仕事が辛くなった大人の相談を中心に行っている。
お父さんはとっても優しくて時間が合えば私の相談も乗ってくれる。
けれど、お仕事が終わった人の相談をすることもあって
帰りが遅くなったり、普段あまり顔を合わせないんだ。
学校のスクールカウンセラーさんも男の人だったと思う。
|美奈子《みなこ》さんに相談できたら安心かな。
「カウンセリングだけもやってますよー、ほのかさんだけじゃなくてお母様のご相談も対応できます」
「ご丁寧にありがとうございます。日程が決まったらまたご連絡しますね」
「お待ちしております。じゃあみなとん、あとはよろしくねー」
「うん。母さん、忙しい中ありがとう」
電話が切れる。|美奈子《みなこ》さんって精神科医だったんだ。
だから|湊《みなと》くんは電話してくれたんだ。
「ありがとう、|湊《みなと》くん」
「割引とかできないのはごめんね。
一応母さん心の病気とかカウンセリングのプロだから。
僕も母さんに話を聞いてもらうことがあるんだ」
そうだったんだ。
前に会ったときは、|美奈子《みなこ》さんを見て怒っていたけど・・・。
本当は信頼しているんだね。
「その気持ちが嬉しいわ。いつもありがとう、|湊《みなと》くん」
「いえ…感謝してるのはこちらの方ですから」
お母さんは|湊《みなと》くんの対応に大喜びですごく褒めていた。
その様子をめりの先輩が「親公認・・・」と言って眺めている。
そ、そんな、親公認とかじゃないから!!
話で盛り上がっているところに|十蟹《とがに》先生が入ってくる。
「・・・まず、ほのかさん、大丈夫ですか?辛くて学校に行けなさそう、とかはないですか?ピース」
「ええ、大丈夫です。何かあった時の病院も紹介してもらいました。学校はちゃんと行きます」
「そうですか、それは安心しました、ピース。でも何かあれば言ってくださいね。
さて、|矢追冬真《やおいとうま》くんの処分についてお話したいのですが・・・」
|十蟹《とがに》先生は真剣な顔つきになる。
その場にいる全員が|十蟹《とがに》先生に注目する。
「停学処分となりました。今後も矢追くんの言動などに改善が見られない場合は退学処分を考えています。
留年になってしまうと、ほのかさんと同じ学年になり距離が近づく危険性がある、という理事長のお考えです」
「・・・そうですか」
誰よりも先に声を上げたのはめりの先輩だった。
友達だったから、ショックなんだろう。
「あちらの親御さんは納得いかれたんですか?」
「ええ、了承を得ています。退学処分になる可能性があることも。
そして、今回の出来事について謝罪されていました」
|十蟹《とがに》先生はお母さんに|冬真《とうま》先輩の親御さんから謝罪文が書かれた手紙を受け取る。
お母さんは「ほのかがどれだけ辛い思いをしたか」と怒っているようにもみえた。
朝も|十蟹《とがに》先生が言っていたけれど、一人で登下校は禁止ということで
これから私は|湊《みなと》くんと登下校することになった。
お母さんも|湊《みなと》くんなら安心だと言ってくれた。
|湊《みなと》くんと一緒なら多少帰りが遅くなっても構わないって!やったー!
お母さんはもう少し|十蟹《とがに》先生と話をするということで
私たちは部屋の外に出た。
「・・・停学処分。場合によっては退学。かなり大きな騒ぎになるわね」
「でも停学なら一定期間経てばまた学校に来れるってこと?」
「僕は来てほしくない。|稲荷《いなり》さんがどれだけ怖い思いをしたか」
|星ノ川学園《ほしのかわがくえん》に入学してから初めての停学処分者が出た。
めりの先輩の言う通り、明日はきっと大きな騒ぎになる。
|冬真《とうま》先輩は美術部で優秀な成績を残して留学までしていて
見た目もカッコいい?から、停学処分になると|冬真《とうま》先輩のイメージも変わるだろうな。
あんなに人が集まるくらい人気者だったから、炎上騒ぎ、みたいな感じになるかもしれない。
でも、あの時の|冬真《とうま》先輩は怖かった。
本当のことを言うと、会いたくない。
めりの先輩は「ちょっとお手洗い行ってくる」とその場から離れてしまった。
|湊《みなと》くんと二人きりになった。
「ほのかさん・・・本当に大丈夫? 辛かったら無理しなくていいんだよ」
「うん、大丈夫。|湊《みなと》くん、今日は本当にありがとう。
これ、渡したかったんだけどタイミングがなくて・・・」
私は|湊《みなと》くんに手紙を渡す。
クッキーの感想と日頃の感謝の気持ちを書いた手紙。
便箋は海の生き物のイラストが描かれたものでイルカのシールを貼って留めている。
直接伝えても良かったけれど、形に残るものにしたかったのと
|湊《みなと》くんから手紙をもらっていたから、なにか渡したかった。
「字もきれいじゃないし、シーリングスタンプもできないけど・・・気持ちは込めたよ」
「ほのかさんが書いてくれたならすごく嬉しいよ。ありがとう、大切にするね」
|湊《みなと》くんが笑ってくれると、私も嬉しい。
嬉しいけど、ドキドキする。
さっき助けてくれたときはカッコよかったのに
笑っている姿を見ると愛おしく見えてしまう。
|湊《みなと》くんと目が合ったけど、恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。
めりの先輩がお手洗いから戻ってきたタイミングで
お母さんと|十蟹《とがに》先生も話が終わったみたい。
「今日は|湊《みなと》くんも|鈴原《すずはら》さんも本当にありがとう。感謝しています。
ほのかのこと、よろしくお願いしますね」
お母さんが|湊《みなと》くんとめりの先輩にお礼を伝える。
お礼を伝えたときに、お母さんは何かに気付いた顔つきになる。
「・・・あら、よく見るとお二人とも天文部なのね・・・。
天文部だと校舎は遠いし大変よね・・?お願いして大丈夫だったかしら?」
「いえ、気にしないでください。こちらも|稲荷《いなり》さんを助けたいだけなので」
「ええ、私も|稲荷《いなり》さんに親切にしてもらってるので、できることはさせてくださいね!」
|湊《みなと》くんとめりの先輩がすぐに返す。
そっか、私、こういう風に言ってくれる人ができたんだ。
今日はお母さんが車で来たのでみんなを送っていくことになった。
先輩ということで、まずはめりの先輩から。
めりの先輩の家はマンションって初めて知った!
新しくできたばかりのマンションでオシャレ!
「気を付けて帰るのよ」とお母さんが子供に言うような口調で言う。
だからめりの先輩は先輩だって!
めりの先輩は両親の帰りが遅く、一人で過ごすことが多いらしい。
お母さんが夜勤のある看護師、ということもあって一人だったりお父さんと一緒だったりするみたい。
だから遅くまで学校に残れるんだ。
めりの先輩は一礼して、そのままマンションの入口に入っていく。
次は|湊《みなと》くん・・・なんだけど、お母さんがニンマリしながら私に道案内を頼んできた。
|湊《みなと》くんに直接聞いてもいいのに。もう!お母さんったら!
私は|湊《みなと》くんの家まで道案内する。
|湊《みなと》くんの家の前に着くと、|美奈子《みなこ》さんが立っていた。やっぱりきれい。
|湊《みなと》くんは「今日はありがとうございました。お気をつけて」
と言って車を出る。
|湊《みなと》くんが車を出た途端、|美奈子《みなこ》さんは|湊《みなと》くんをぎゅーっと抱きしめる。
|湊《みなと》くんは笑ってるけど、あれは・・・怒ってる笑顔だ。
お母さんは「仲良しなのねえ」と言って笑顔の意味に気づいていない。
そして車が動き出す。
「|湊《みなと》くんのこと、好きなんでしょ?」
いきなりお母さんに聞かれてびっくりする。
「た、ただ憧れてるだけ、だよ?」と言ったけれど・・・。
「お勉強教えてもらったり、お菓子作ってもらったり
助けてもらったり一緒に学校も付き添ってもらって。
それで好きにならない女の子がどこにいますか!」
さらにお母さんは「私がほのかだったら絶対好きになってたと思うなあ」と上機嫌。
私は「よし、なんとかごまかせそう」と思ったのだけれど。
「それで最近|大河《たいが》くんと会ってなかったの?
一緒に登校したり帰らなくなったから喧嘩でもしちゃったのかと思った」
「喧嘩したわけじゃないけど・・・その・・・」
やっぱり、お母さんはお見通し。
お母さんには隠し事ができなくて、二人から告白されて返事もしたことを話してしまった。
すると、お母さんがビックリして、車のスピードが上がる。
「あっぶない!私ったらもう!そういうことかあ。
でも子どもたちの世界に口を挟むものじゃないわね。
相談には乗るけど、できるだけほのかたちのことはほのかたちで決めること。
あと、お父さんとおばあちゃんには内緒ね、大騒ぎする人たちだから」
私はお母さんに「ありがとう」と伝えて、そのまま車の中で眠ってしまった。