星空の解放日
麦星すばる
真実
私は|冬真《とうま》先輩に抱きしめられて
離れようとしても力が強くて離れられない。
「あ、あの・・離してください!」
「・・・ずっと見てた。ほのかちゃんが受験で|星ノ川学園《ほしのかわがくえん》に出入りしていたときから。
昨日も早く姿を見たくて、後ろから見てたよ」
|冬真《とうま》先輩が何を言っているのかよく分からなかった。
私が受験で・・ってことは、この学校に入学する前から見られていたってこと・・?
考えるだけで、ゾッとする。
そして、ストーカーは・・・|冬真《とうま》先輩。
「ほのかちゃんが入学すればいいなと思っていた矢先に
留学が決まって、本当は辞退しようかと思った。
でも辞退するわけにもいかなから
帰省を装って何度か学校にも来ていた。気づかれないようにね」
「ど、どうしてそんな前から私を見ていたんですか?」
私はなんとか逃げられないかなと考えながら|冬真《とうま》先輩に尋ねる。
「可愛かったから。今の学園でもこんな可愛い子、ほのかちゃんしかいない」
|冬真《とうま》先輩が私を更にぎゅっと抱きしめる。
どうしよう、これじゃあ、私の力で離れられそうにない。
「・・・やっぱり、ほのかちゃんって好きな子がいるの?」
「い、います!だから離してください!」
「じゃあ、その人に奪われるわけにはいかないな」
私が声を上げても|冬真《とうま》先輩は私を離さない。
|冬真《とうま》先輩の右手が私の頬にあたる。
どんどん|冬真《とうま》先輩の顔が近づく。
怖い。
その時、|湊《みなと》くんが走ってきて、|冬真《とうま》先輩の腕を強く握る。
「離してもらえますか?」
|湊《みなと》くんは怒るとすごく怖くて、笑顔でいることが多い。
けど今は私も見たことがない、まるで殺し屋のような顔つきで|冬真《とうま》先輩を睨んでいる。
|冬真《とうま》先輩は|湊《みなと》くんを見て「ひい」と怯えながら私から離れていった。
私は|湊《みなと》くんのもとへ駆け寄る。
逃げようとする|冬真《とうま》先輩をめりの先輩が止める。
「|矢追《やおい》くん!すべて録音、録画させてもらいました。それから・・これは何なのかしらね?」
めりの先輩がカメラやマイクだけではなく、写真と画集・・?みたいなものを持っている。
写真は1枚だけじゃなくて、めりの先輩のポケットからも溢れ出ている。
よく見ると、学園内外の私の写真、画集のような本も描かれてるの・・私?
盗撮・・・されてた? あと絵も描かれてたってこと?
「|十蟹《とがに》先生を通して理事長にもきっちり報告します。このストーカー!」
「先生に言ったところでどうなる?僕の周りにいる子たちは信じるのかい?めりのちゃん」
「停学処分くらいはいけるんじゃないかしらね。ここは私立中学だから」
「AIでごまかしたり、証拠隠滅なんて容易いじゃないか」
「そうかしら。AIと本物って区別がついたりするものよ。甘く見ないでほしいわ。
それに|稲荷《いなり》ちゃんへ与えた精神的苦痛は相当なもの。反省・・いえちゃんと償いなさい!」
めりの先輩が忠告しても|冬真《とうま》先輩は聞く耳を持たなかった。
「僕を止めることはできない。ほのかちゃんはいずれ僕のものになる」
|冬真《とうま》先輩が笑いながら立ち去る。
|冬真《とうま》先輩の姿が見えなくなると、私は力が抜けて座り込んでしまう。
「こ、怖かったあ・・・」
「|稲荷《いなり》さん、ごめん。証拠を残すためって|鈴原《すずはら》さんに止められて・・・」
「でも、|湊《みなと》くんもめりの先輩も守ってくれたよ、ありがとう」
「本当は僕も怖かったんだ。先輩相手に顔色一つでなんとかなるとは思ってなくて」
私は|湊《みなと》くんの手を握って立ち上がる。
|湊《みなと》くんが「怖かったよね」と私を優しく抱きしめる。
|湊《みなと》くんは優しい。
さっき|冬真《とうま》先輩に抱きしめられたときはあんなに怖かったのに。
・・・あれ? 私、み、湊くんに・・・
私が顔を真っ赤にさせているのに気付いたのか
湊くんはハッとなって「・・・ごめん」と私を離す。
あれ?めりの先輩は?
いつもだったら「なに、イチャイチャしてるのよ!」って言うのに。
めりの先輩は申し訳無さそうな、元気のなさそうな顔をして私達を見る。
「ごめんなさい。調べているうちに|矢追《やおい》くんが怪しいっていうのは感づいてた。
|矢追《やおい》くんの机から|稲荷《いなり》ちゃんの写真とか画集が見つかっていたの。
私がもう少し早く報告していれば、こんなことにはならなかったかもしれない。
|矢追《やおい》くんが留学していることで、油断してた」
「・・・|鈴原《すずはら》さん。本当は|矢追《やおい》さんと知り合いなんじゃないですか?
|稲荷《いなり》さんが盗撮にあっているなら、普段の|鈴原《すずはら》さんはすぐに報告するはず。
それをしないということは・・・|鈴原《すずはら》さんは|矢追《やおい》さんをかばったようなものですよ」
「そうね。情報を扱う者として、いけないことをしたと思ってる。
その結果、|稲荷《いなり》ちゃんを巻き込んでしまったわ。本当にごめんなさい」
「で、知り合いなんですか?|矢追《やおい》さんと」
|湊《みなと》くんの問いかけに対して、めりの先輩はずっとごまかそうとしていた。
けれど、今まで我慢していたものが壊れてしまったかのように泣き出してしまった。
「そうよ。私、|星華《せいか》、|月華《つきか》、|桃羽《ももは》、・・・、|矢追《やおい》くん、・・・、最初みんな、友達だった。
けど、ある日を境に、|桃羽《ももは》が|月華《つきか》をいじめて、|月華《つきか》は不登校。
それから、|桃羽《ももは》が学校へ行かなくなって、|矢追《やおい》くんは留学が決まって。
みんな、バラバラになってしまった。
そして調べたら|矢追《やおい》くんは|稲荷《いなり》ちゃんの盗撮にストーカー・・・
どうして・・・」
泣きじゃくるめりの先輩の声はところどころ聞き取れない。
・・・最初は、みんな友達だった?
じゃあ、|星華《せいか》先輩や|月華《つきか》先輩も|桃羽《ももは》先輩や|冬真《とうま》先輩も
仲が良かった時期があったってこと・・・?
なのに、めりの先輩達と|桃羽《ももは》先輩は敵対している、ということになるよね?
「じゃあ、さっき停学処分くらいはいけるんじゃないかって言ったのは・・・?」
「自分のしたことに対して、きちんと反省してほしかったからよ。
こうなるかは別として、やったことは決して許されることではないから。
|稲荷《いなり》ちゃんに怖い思いさせちゃったし、それが消えるわけじゃない」
めりの先輩は散らばった写真を拾い上げながら再び喋りだす。
「|矢追《やおい》くんが|星ノ川学園《ほしのかわがくえん》の受験があった1月からおかしいのは気付いてた。
留学をやめようかなと言っていたこともあった。
でも、そこで入学前の生徒を見ていたなんて、私も気づかなかったわ・・・」
「めりの先輩。・・・あの、本当は|桃羽《ももは》先輩たちとまた友達として一緒にいたいんですよね。
|冬真《とうま》先輩がしていたことも、信じられなくて報告できなかったんですよね」
「|稲荷《いなり》さん!あんな思いをしたのに、|鈴原《すずはら》さんを許すの?」
「|稲荷《いなり》ちゃん、無理しなくていい。許されなくて当然。
今回の報告や証拠提出はきちんとするわ。
でもストーカーのことは手紙の筆跡を見るまで確信が持てなかったの。
・・・これだけは信じて」
めりの先輩はかなり落ち込んでいる。
気付いていたにも関わらず、|冬真《とうま》先輩が私を盗撮していたことを隠していた。
めりの先輩は仲間思いだから、友達を信じているから、してしまったこと。
「らしくないですよ!めりの先輩!
めりの先輩はハキハキしていて、頼りがいがあって、仲間思い!
友達を誰よりも大切にする。
だからこそ、|鈴原《すずはら》めりの先輩、じゃないんですか?」
私はめりの先輩の肩に手を当てて、笑ってみせる。
「|冬真《とうま》先輩の報告もお願いしたいんですけど、
私と|湊《みなと》くんが二人でいられて、|湊《みなと》くんが弓道部を休める方法、考えてください!
そうしてくれたら、今回のことは許します!」
「本当に許していいの?|稲荷《いなり》さん」
「大丈夫だよ、これまでのめりの先輩と過ごした時間はウソじゃない」
「・・・|稲荷《いなり》ちゃんは優しいんだか、お人好しなんだか、分からないわね。
いいわ。責任を持って明日までになんとかする。
お願いして申し訳ないけど星天祭のとき、星座の力を持つ者として引き続きよろしくね」
私はめりの先輩がいつもの調子に戻って喜ぶ。
|湊《みなと》くんは「さっきまであんな状況だったのに・・・」と苦笑いしている。
「ありがとう」
めりの先輩は私にだけ聞こえるようにささやいた。