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星空の解放日 麦星すばる

SOS

怖かった。 家の中がとても安心する。 確かに私の後ろに誰かついてきていた気がする。 だけど、振り返ってみても誰もいなかった。 ・・・幽霊!? お化け!? いや、まさかね。 一人で帰るの、やめようかな。 私になにかあるときって一人の時だ。 |流星《りゅうせい》くんが近づいてきたときも一人の時だった。 でも、誰に助けを求めればいいんだろう。 |湊《みなと》くんとなおきくんは弓道部だし くるみちゃんは|霜村《しもむら》さんに送迎してもらってるし |大河《たいが》は帰り道一緒だけど、頼っていいのかな・・。 となると、めりの先輩、|星華《せいか》先輩、|月華《つきか》先輩。 だけど、めりの先輩は遅くまで学校に残ってるし |星華《せいか》先輩と|月華《つきか》先輩は剣道部だし・・。 |流星《りゅうせい》くんとはお話するようになったけど 家がどのあたりか分からないんだよね。 だから帰り道もどこまで一緒にいられるか。 誰かと一緒に帰りたいから帰るのが遅くなる、とは言えないよね。 私も部活動、入っていれば良かったかな。 私のスマートフォンから音楽が流れる。 やっぱり好きな音楽が流れると安心する。 画面を見て|湊《みなと》くんからの着信だと分かった。 けれど私はいつもの癖で「はい、稲荷です」と答えてしまう。 「ほのかさん?|湊《みなと》です。今大丈夫? ・・・というか何かあった?声に元気がないから」 「う、うん。あのね・・信じてもらえないかもしれないけど、 帰るとき、誰かにつけられたみたいなの。でも後ろを見ても誰もいなくて・・」 「え・・すごく怖かったよね? 明日から一緒に帰ろうか?」 |湊《みなと》くんの優しい言葉に甘えてしまいそうになる。 けど、部活動を休んで私についてもらうわけにもいかない。 「でも|湊《みなと》くんが弓道部を休んだり、私が毎日残るわけにも・・・」 「ほのかさんが危ないなら、弓道部は休むよ」 |湊《みなと》くんの声に嘘や迷いはなかった。 私を思って言ってくれているのが分かった。 それでも「弓道部を休むのは良くないよ」と言おうとした。 だけど。 「|湊《みなと》くん、怖かった」 隠していた本音が出てしまった。泣いてしまった。 今までこんな事、なかったから。本当に怖かった。 「・・怖かったよね。僕も分かるよ。 分かるから一緒に帰ろうって言ってる。僕みたいな思いをしてほしくないから」 |湊《みなと》くんは前の私達の担任だった|島香《しまか》先生からストーカーを受けていたことがある。 私に「女の子といるのは避けようって思ってたのに」って言っていたくらいだから きっと辛かったはず。それでも私に声をかけてくれる。 そう思うと、ますます涙が溢れてしまう。 「・・・大丈夫。ほのかさんの担任の|十蟹《とがに》先生に相談するのと |鈴原《すずはら》さんは新聞部だから証拠を残す手段はいっぱいあるはず。場合によっては親御さんに相談」 「でも、めりの先輩から私達、学校では一緒に行動しないほうがいいって言われてるよね? |湊《みなと》くんだって、取り巻きの人から何を言われるか分からないよ」 そう、夏休み前に私のカバンが隠されたり、|湊《みなと》くんの取り巻きが嫉妬深い人という噂がある。 その事情も考慮し、めりの先輩から私達は学校では距離を置くしかないと判断されてしまい、 学校では一緒に行動しないほうがいいと言われたばかりだ。 「ほのかさんに危険が迫っているなら、僕は何を言われても構わない」 普段、控えめで優しい|湊《みなと》くんからは想像のつかない真剣な声。 もし、電話じゃなくて、隣に|湊《みなと》くんがいたら、私はどうしただろう。 私は、ただ「うん」とうなずき、うさぎのぬいぐるみを抱きしめている。 「・・ほのかさん。やっぱり明日の朝も迎えに行くよ」 「そ、そんな。悪いよ。|湊《みなと》くん」 「悪くなんかない。僕、ほのかさんにたくさん助けられたから。それじゃまた明日」 |湊《みなと》くんに言い返そうとした瞬間、反論させまいと電話は切れてしまった。 でも、|湊《みなと》くんが電話してくれなかったら、私、何もできなかったよね。 「|湊《みなと》くんがいてくれて、良かった」 泣き止んでいたけれど、怖くて眠れなくて、ぬいぐるみたちと一緒に布団の中に潜っていた。 ぐっすりとは眠れなくて、寝坊してしまう。 そこにお母さんがやってきて「|湊《みなと》くんが来てるの!!」と大騒ぎ。 私は慌てて準備して家を飛び出す。 そこには|湊《みなと》くんが立っていた。夢でも見ているかと思った。 めりの先輩に言われてから、一緒に学校に行くことはなかったから。 「・・おはよう、ほのかさん。一応、夢じゃないからね?」 「おはよう、|湊《みなと》くん。分かってる。今日はありがとう」 私の姿を見て安心したのか|湊《みなと》くんは優しく微笑んでいる。 けれど、誰かにつけられたという話をしたからか周囲を警戒してくれているようだった。 |湊《みなと》くんと学校へ行くのは久しぶり。 それは嬉しいけれど、穏やかな状況ではない。 小さな音、人の気配を少しでも感じれば|湊《みなと》くんは確認してくれていた。 「まず、学校に着いたら|十蟹《とがに》先生のところへ行って。 |鈴原《すずはら》さんには僕の方から話しておく」 「分かった。ありがとう、|湊《みなと》くん」 |湊《みなと》くんのおかげで何事もなく学校の前まで着くことができた。 けど、あの集まりはなんだろう? たくさん人がいて、まるで|湊《みなと》くんの取り巻きみたい。 後ろから「おはようございまーす!」となおきくんの声がする。 「お二人が一緒だなんて久しいですね。 いやあ、今日は|文学部《ぶんがくぶ》で留学していた方が 戻られたとかで、人混みがすごくて校舎に入りづらいですね」 「留学?|星ノ川学園《ほしのかわがくえん》で留学してた人なんていたっけ?」 「それが、僕たちが入学する前に留学されていたそうで、僕たちと同学年の人は知らないはず。 僕も分からないんですよ。同じ|文学部《ぶんがくぶ》の ほのかさんが知らないなら、|鈴原《すずはら》先輩に聞くしかないですね」 「・・|文学部《ぶんがくぶ》の人か。校舎までの道が塞がれたら困るな。なおきくんもちょっといい?」 |湊《みなと》くんはなおきくんを見てにっこり笑うと なおきくんは「分かりました」と断れない様子だった。 私達は人混みに混ざって、|文学部《ぶんがくぶ》の校舎に向かう。 |湊《みなと》くんとなおきくんがガード役として入ってくれている。 校舎の扉まであともう少し。 「見つけた」 |湊《みなと》くん?なおきくん?なにか言った? と確認しようと思ったけれど、黄色い声援が大きくて確認できなかった。 |文学部《ぶんがくぶ》の校舎に入って、|湊《みなと》くんとなおきくんにお礼を言うと 私はすぐ職員室に向かって、|十蟹《とがに》先生に事情を話した。 「なるほど、分かりました。私も警戒しておきます。 |島香《しまか》先生の件といい、どうして愛の暴走が起きるのでしょうか。 いや、愛と決まったわけではありませんが・・学園と新聞部で提携して調査を行います。 ほのかさん、怖かったでしょう。相談してくれてありがとう。 ほのかさん、登下校時は誰かと一緒にね、ピース」 「ありがとうございます。・・・あの、|十蟹《とがに》先生。朝、帰ってきた留学生って?」 「ああ、あの生徒さんはですね、|矢追冬真《やおいとうま》くん。|文学部《ぶんがくぶ》2年。美術部。 海外で絵の勉強をしてきた生徒さんです。 |湊《みなと》くんが入学する前はとても人気者で先程のような人混みが毎日できていたんですよ。 留学が決まって静かになっていましたが、|湊《みなと》くんが入学してからは |湊《みなと》くんにキャーキャーってなるようになりまして、ピース」 |十蟹《とがに》先生に聞いてみたけれど、さっきは人混みで顔も見えなかったし、名前を聞いても誰?としか思えなかった。 教室に向かうと、相変わらずくるみちゃんと|流星《りゅうせい》くんが喧嘩をしている。 |大河《たいが》はそれを止めるわけでもなく、二人がやりたいならどうぞみたいな雰囲気を出していた。 いつもだったら「おいおい、古坂」って言いそうなのに。 |十蟹《とがに》先生に相談できたから、少し、気持ちが楽になった。 でも、一番は|湊《みなと》くんと一緒に学校へ行くことができたこと、かな。