星空の解放日
麦星すばる
小テスト結果発表
今日は小テストが返却される日。
私にとっては一大イベント。
今までお勉強で頑張ったことはなかったけれど、
|湊《みなと》くんとくるみちゃんが教えてくれたから、それに応えられるように頑張った。
|大河《たいが》も一緒に教えてもらっていたから、気合入っていたみたい。
|十蟹《とがに》先生が入ってくる。
「おはようございます、ピース。
今日はみなさんが頑張った小テストの返却日です。
みなさんお疲れ様でした、ピース」
ドキドキする。
もし点数が低かったら|湊《みなと》くんと水族館に行けな・・
あ、いや、教えてもらった二人に申し訳がつかないよ。
|湊《みなと》くんは天文部だからお昼休憩のときに集まってテストの点数を教え合う予定。
順番にテストが返ってくる。
「次、|七木《ななき》くん」
|大河《たいが》は「ウス・・」と緊張しながらぎこちない返事をする。
|大河《たいが》が|十蟹《とがに》先生からテストを受け取り、パラパラとめくると・・。
「お!教えてもらったから点数がかなり上がった!
こりゃ|湊《みなと》と|古坂《こさか》に感謝しなくちゃな」
|大河《たいが》が思わず声に上げる。
すると、「|湊《みなと》って|瀬名《せな》くん!?やっぱり優等生!」「|瀬名《せな》くんに教えてもらえるなんていいなあ」
「|古坂《こさか》さん!?教えるの上手なんだ!私も教わりたい」とざわめきはじめる。
|十蟹《とがに》先生はパンパンと手をたたき声を止める。
「今は返却中ですからねえ、お静かにお願いしますよ、ピース」
|大河《たいが》は「すみません!」と謝って、自分の席へ戻る。
くるみちゃんはいつもどおり静かに受け取り、静かに自分の席につく。
特に問題なかったんだろう。
そして私の名前が呼ばれる。怖い。
名前を呼ばれると、恐る恐る|十蟹《とがに》先生の前に立つ。
「|稲荷《いなり》さん。今回は頑張りましたね、ピース」
|十蟹《とがに》先生が笑顔で私にテストを返す。
「ありがとうございます!」と|十蟹《とがに》先生にお礼を言って自分の席へ戻る。
確認するとどの教科も上がっていた。
でもクラスの平均よりは上か下かはまだ分からない。
「それではクラスの平均点を発表します、ピース。
国語が85点、数学が78点、社会が80点、英語が80点、理科が75点、ですね。
文学部なので理数系が落ちるのは仕方がないのですが、理数系も頑張ってみましょうね、ピース。
でもみなさん頑張りました。お疲れ様でした、ピース」
うーん・・。数学が82点、社会が79点・・
だから、|湊《みなと》くんと・・水族館!?やったあ!私は思わず飛び跳ねてしまう。
「|稲荷《いなり》さん!!張り切り過ぎもほどほどに!ピース!」
|十蟹《とがに》先生に注意されてしまう。
私は「すみません・・」と恥ずかしくなりながら自分の席に座る。
周りからは笑いが止まらない。
|湊《みなと》くんとの話は|大河《たいが》とくるみちゃんに知られるわけにはいかないから、帰り道でこっそり言えたらいいな。
お昼休憩時、|湊《みなと》くんも交えてテストの結果発表。
相変わらず|湊《みなと》くんとくるみちゃんは険悪な雰囲気になっている。
「|稲荷《いなり》さん、数学どうだった?」
「いなほちゃん、社会どうでした?」
|大河《たいが》は呆れながらふたりを見ている。
|大河《たいが》が「俺はどっちも平均以上だったんだけど・・」
と言うと、くるみちゃんは「|大河《たいが》くんの結果は聞いていませんの!」
と切り捨ててしまった。
「えーっと・・数学が82点、社会が79点だったよ。
数学は平均を超えたけど、社会はだめだった。くるみちゃん教えてくれたのにごめんね」
「い、いえ!私の教え方が至らなかったんですわ。
張り切りすぎてしまいましたし、いなほちゃんにはご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」
くるみちゃんが素直に謝ったからか、|湊《みなと》くんも意外そうな顔をしている。
「・・素直に謝れるんだ」
「|瀬名《せな》くん、私をなんだと思っていますの!?
・・でも、今回は私が原因ですから。今回は私の負けを認めます。
次はぜーったい|瀬名《せな》くんよりもうまくいなほちゃんにお勉強を教えますから!!」
次・・?次もお勉強会するの・・?
どうしよう。もうお勉強は・・。
「でも平均点が上がることは悪いことじゃないし、
|湊《みなと》と|古坂《こさか》さえ良ければまたできたらいいよな」
|大河《たいが》―――!! お勉強はもう勘弁だってば。
「うん、みんなと過ごせたのは楽しかったし、みんなさえ良ければまたしようか?」
|湊《みなと》くんまで!!でも、みんなと勉強できたのは楽しかったな。
今までお勉強なんて苦手!嫌い!
と思っていたけれど、これがみんなと話すきっかけになればいいよね。
「そうだね。|湊《みなと》くんもくるみちゃんも教えてくれてありがとう。
助かったよ。みんなが忙しくなければまた集まろう。私の家はいつでも大丈夫だから」
「俺の家は兄妹がいてうるさいから、ほのかの家が助かる」
「うちも両親が突然帰ってきたりするから・・」
「私の家はご招待したいのですが来客が多くなってて・・」
いつでも大丈夫と言っちゃったけど、私の家になっちゃった・・。
これからもお部屋の片付けはちゃんとしよう・・。
|湊《みなと》くんの方を見ると、私に気づいたからか優しく微笑んでいる。
数学は平均点より上だったから、かな?
「|稲荷《いなり》さん、お疲れさま」
|湊《みなと》くんはそれだけ言って、移動時間があるから
と天文部に帰っていってしまった。
「勝者の余裕かしら?もう、嫌になっちゃいますわ」
くるみちゃんは|湊《みなと》くんの後ろ姿を見ながら悔しそうにしている。
「勝ち負けじゃないって」って|大河《たいが》がなだめるけれど、くるみちゃんはスッキリしない様子。
こうして私の小テストは幕を閉じた。
・・・と言いたいけれど、
平均よりも上だったら|湊《みなと》くんと水族館に行く約束をしていたから、放課後は|湊《みなと》くんを待つ。
弓道部は相変わらず黄色い声援が溢れる。
私も昔混ざっていたんだよな・・。
今は|湊《みなと》くんと話せる機会も、ふたりきりにならなきゃいけない状況
も増えたから、あの輪の中になかなか入れなくなってしまった。
こっそり隠れているとなおきくんに気づかれてしまった。
「あ、ほのかさん!お疲れさまです。もしかして、|湊《みなと》くんにご用ですか?」
「う、うん・・。でも人が多くてなかなか入りづらくて」
なおきくんはなぜかニコニコしていて、「ついてきてください!」と言って私を案内する。
そこは弓道部で使う弓などがしまわれている倉庫だった。
そこには|湊《みなと》くんがいた。なおきくんは「ごゆっくり!」と言って去っていってしまった。
ごゆっくり!ってなに!?
「あ、|稲荷《いなり》さん。お疲れ様。
他の科目ももっと教えられたら良かったんだけど。
数学は平均より上だったから、水族館、行こうか」
「え、いいの?」
「もちろん。そういう約束だったし、
お勉強会は僕が言い出したわがままだから。
・・で、夏祭りっていつ?被らないようにするよ」
私は夏休みの日程を伝える。|湊《みなと》くんは「分かった」とうなずく。
「実はまだ部活の時間で道具を取りに行くって言ってここに隠れてたんだよね・・。
あの調子だと二人きりで話すなんて難しいし、なんとかならないかな・・」
「うーん・・・|湊《みなと》くんが好きな人って多いからなあ」
「そうかな。|稲荷《いなり》さん、もし時間が大丈夫だったら一緒に帰らない?」
「わ、私で良ければ・・・」
|湊《みなと》くんは倉庫を出て、部活動へ戻っていく。
私もしばらくしてから倉庫を出て、|湊《みなと》くんの部活動の終わりを待つ。
待って。|湊《みなと》くんに一緒に帰らない?って言われたよね、私。
|湊《みなと》くんから?どうしよう。
とりあえず校門前で待っていれば間違いないはず。
取り巻きの子たちが見送るのは校門前までだから。
しばらくすると、|湊《みなと》くんを見送る声が聞こえてくる。
|湊《みなと》くんがゆっくりと歩いてくるのが分かる。
けれど今日はいつもと違った。こっそりと様子を見る。
「あの、みんな、気持ちは嬉しいんだけど・・。僕には好きな人がいる。
弓道部も入部を考えている人以外の見学はやめてほしい。
他の部員の迷惑にもなるから。仲間に迷惑かけたくないんだ。
そして・・静かに帰りたいからこうして集まるのもやめてほしい」
|湊《みなと》くんは一礼して、取り巻きの子たちにお願いをしていた。
「好きな人!?」と周囲のざわめきが止まらない。
もちろん私も心のなかで
「す、好きな人!?|湊《みなと》くんいつの間に好きな人が・・どうしよう」
と揺らいでいた。
たしかに前もめりの先輩に捕まったとき言ってたけど、そのときは嘘だって。
でも今回は嘘のようには聞こえなかった。
|湊《みなと》くんの声が真剣で、見つめる目が真っ直ぐだったから。
取り巻きの子たちはざわざわした後、|湊《みなと》くんが言うなら・・と帰っていった。
取り巻きの子たちが帰っていったのを見て、私は|湊《みなと》くんの前に立つ。
「お疲れ様。|湊《みなと》くんがあんな風に言うなんて珍しいね。あのとき以来じゃない?」
「弓道部への押しかけは迷惑だったから、思い切って話してみた。
これで話が通じないならその人たちを思うことはできないよ。
帰りもその時話したい相手と帰りたい。けど今まで知らない誰かに囲まれて。
一回怒ったことがあったけど、それでも止まらなくて。これでもだめだったら、本気で怒るつもり」
「うん・・。|湊《みなと》くんの思い、きっと分かってくれるよ」
|湊《みなと》くんは「ありがとう」と安心したような微笑みを見せる。
私と|湊《みなと》くんはそのまま帰り道を進む。
「・・あの、|湊《みなと》くん、好きな人って!?」
「え・・。えっと、そう言えばみんな諦めてくれるかなって」
|湊《みなと》くんは頬を赤くしている。
じゃあ本当に好きな人がいるんだ。
「|湊《みなと》くんが好きな人ってきっと素敵なんだろうね!」
私が言うと、|湊《みなと》くんは「ふぅ」とため息をついていた。
なにか悪いこと言ったかな。その時、|月華《つきか》先輩からの言葉が頭をよぎる。
—ほのかとふたりで一緒に過ごしたいのよ、|湊《みなと》くんも|大河《たいが》くんも。
でも、私じゃないかもしれない。|湊《みなと》くんは私を見て、優しく微笑む。
「水族館楽しみなんだ。あまり誰かと出かけたことがないから。
お勉強会も大変だったと思うけど、付き合ってくれてありがとう。|稲荷《いなり》さん」
「ううん、|湊《みなと》くんのおかげで勉強の楽しさが分かったよ。ありがとう」
分かれ道。|湊《みなと》くんとはここでお別れ。
「それじゃまたね、|湊《みなと》くん!」
|湊《みなと》くんは「うん、またね」と優しく言って私を見送っている。
「・・今度が最後かもしれない。|稲荷《いなり》さんとふたりきりでいられるのは」