星空の解放日
麦星すばる
いちばん
めりの先輩に手伝ってもらったおかげで、夏休みの宿題はほぼ終わってしまった。
さて、今日は何をしようかな。
・・・ってのんきに悩んでいる場合じゃない!
二人への返事を考えないといけない、よね。
流星群の日には伝えないと。
考えていると階段を登る音がする。お母さんだろう。
「ほのかー!くるみちゃんから電話きてるわよ。代わってもらえる?」
やっぱりお母さんだ。
私は「はーい」と返事をして部屋を飛び出す。
そうだ。くるみちゃんにも謝らないと。
くるみちゃんとはずっと会ってない。
学校も休んだままだったし、本当に体調不良だったら・・と思うと心配だった。
話しかけていいのか分からなかったから、電話が来てよかった。
私は1階に下りて保留になっている受話器を取る。
くるみちゃんは怒っているのかな。
そう、心配しながら。
「もしもし、くるみちゃん。ほのかです」
「いなほちゃん!?良かった。
お電話に出ていただけて・・あのときはごめんなさい」
「ううん。私の方こそごめんね、くるみちゃん何も悪くないのに。体調は大丈夫?」
「ええ、体調の方はなんともありませんわ・・悪いのは私です。
私がいなほちゃんを思うあまり感情的になったのがいけなかったんですの」
「思う?」
「いえ、なんでもありませんわ。私といなほちゃんは別の人間ですし、考え方も違います。
そうなれば、お互いの気持ちが分からなかったり、考え方も違ってぶつかりあうのは仕方ないのです。
そんな当たり前のことに気づかず、私はいなほちゃんが
遠くに行ってしまったような気がして、さみしくなったんですわ」
くるみちゃんの声が少し震えているのが受話器から伝わる。
最近、星座の力に関する集まりが多かったし
くるみちゃんも休みがちであまり話せずにいて
さみしい思いをさせたかもしれない。
「くるみちゃん・・・遠くって、そんなこと・・」
「大河くんと瀬名くんがいなほちゃんを思っていたのは知っていました。
だから、いなほちゃんが誰かに取られてしまうんじゃないかって、怖くなって。
人が誰かを好きになることも普通のことなのに。
お勉強会のときもちょっといじわるしたのは、そういうことです。ごめんなさい」
「・・それで・・だったんだ。でも私は誰かの物じゃないし、
くるみちゃんさえ嫌じゃなければこれまで通りお話しようよ。
それじゃ、だめ・・?」
「・・いなほちゃんが私のことを怒っていなければ、それで十分ですわ。
いつも通りお話できること、お友達としていられることが、私にとって一番の幸せですから」
「良かった。くるみちゃん、声が明るくなった」
くるみちゃんの声色が少しずつ明るくなっていったことにホッとした。
「いなほちゃん、お姉様の件はもう知っていますわよね」
「うん」
「・・私とお姉様は同じ屋敷で暮らしていないので、霜村さんにも調べてもらっています。
なにか情報が入りましたらお伝えしますわね」
「ありがとう、くるみちゃんは流星群の日、登校する?」
「ええ、午前だけ。夜は家の事情で登校できませんが、お姉様のこと調べてみますわ」
「分かった、学校で会えるの楽しみにしてるね。話してくれてありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます。失礼します」
私も受話器を切る。くるみちゃんとお話できてよかった。
体調が心配だったけれど、流星群の日は登校すると聞いて嬉しかった。
流星群の日の楽しみが増えた。
「ほのか、ずいぶんくるみちゃんとお話してたのね?」
「くるみちゃん、1週間くらい学校休んでてあまり話せてなくて」
お母さんが「そうだったの」とうなづき、台所に向かおうとしたけれど・・・。
あれ?お母さんって告白の返事とかしたこと、あるよね・・?
そうじゃないとお父さんと結婚してないし、私もいないし・・。
でも、私が告白されたなんて言ったら大騒ぎだよね。
そうだ!
「ねえ、お母さん。雑誌で感想を送りたいんだけど・・・
素敵な連載が二つあって、アンケートはがきからは
感想を一つの連載にしか送れない時ってどうする?」
大河と湊くんから告白されて返事に迷っている
とは言えなかったので、似たような状況でごまかしてお母さんに聞く。
「そうねえ。ほのかだったら、どっちの連載の人とお話したい?
どっちかにしか送れないなら一番お話したい人、一番応援したい人を選んだ方がいいわ」
「一番・・・」
「雑誌はいつでもあるわけじゃないから、ほのかが一番お話してみたい人がいいと思うわ。
読者の声で連載の継続も決まるみたいだし・・
一番って難しいと思うけど、直感で決まるものよ、良い感想が書けるといいわね」
「ありがとう、お母さん」
実は雑誌のことではないからちょっとだけ罪悪感があったけれど
良いヒントが得られた気がする。
自分の部屋に戻って日記に大河と湊くんのことを書いてみる。
告白された日の日記を読み返したけれど支離滅裂であまり参考にならなかった。
一番・・・か。
選ばなきゃいけないと考えると難しくなるので、返事をしようと切り替えることにした。
大河はずっとそばにいてくれて、小さい頃からやんちゃなことをして過ごした。
毎日となりにいることが当たり前になってて
大河と話さない日ってあまりなかったと思う。
気づけばそこにくるみちゃんもいて、三人でいつもいることが多かった。
一緒にいて楽しい。変わってほしくない日常。
笑い合いながら過ごした毎日。
だからこそ、夏祭りのときに、大河に告白されたときは驚いてしまった。
くるみちゃんは気づいたと言っていたけれど、私は大河の思いに気付けなかった。
湊くんが笑ってくれたり自分のことを話してくれたとき、心を開いてくれたみたいで嬉しかった。
最初は憧れで遠くから見ていただけだったけど、
少しずつ湊くんを知っていくうちに、湊くんに近づいていくうちに
女の子らしくならなきゃって思うようになった。
周りの女の子が湊くんを思う気持ちやドキドキする気持ちが分かるようになった。
勉強も教えるのは初めてと言ってたけど分かりやすく教えてくれた。
一緒に授業を受けているわけではないのに私の苦手を理解して丁寧に教えてくれた。
いつも遠くにいるのに近くにいてくれる安心感があった。不思議な感覚。
湊くんと一緒にいる時、沢山の初めてがいっぱいあった。
私はきっと―
大河も湊くんも勇気を出して私に伝えてくれたのがすごく分かる。
今すごく胸が苦しいから。
私も勇気を出して伝えなくちゃ。
流星群の日。二人に。