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星空の解放日 麦星すばる

胸の高鳴り

翌朝。私はちょっとだけ早起きした。 昨日、めりの先輩から|月華《つきか》先輩が いじめに遭っていたなんて話を聞いたら、色々考えちゃうよ。 「アイツ」って呼ばれていた人が犯人だろうけれど、 いじめの心の傷からか名前とか特徴は聞けなかったなあ。 早く起きたことだし、身支度もバッチリ。|大河《たいが》を呼びに行こう。 いつもより早く家を出て、隣の|大河《たいが》の家に向かう。 |大河《たいが》もちょうど今から向かうところだったようで、ちょうといいタイミングだった。 「おはよ!|大河《たいが》」 「ああ、おはよう。ほのか、昨日はなんかあったのか?帰り遅かったみたいだが」 「弓道部の見学に行って、その後、めりの先輩たちと色々お話したんだ」 昨日あったことを|大河《たいが》に伝えた。 出来事が多すぎたこともあって、|大河《たいが》は目を丸くしていた。 そりゃあもちろんビックリするよね。 星座の能力者がなおきくん、めりの先輩、|星華《せいか》先輩、|月華《つきか》先輩と 四人も分かっちゃったし、それに加えていじめの犯人も星座の能力者だもんね。 「で・・その、|湊《みなと》は?」 「|湊《みなと》くん?昨日は弓道部の部長さんに 呼ばれたとかで図書室までは一緒に行かなかったよ」 |大河《たいが》は、ふう・・と一息ついた。 |湊《みなと》くんが心配だったのかな・・? まあ、小学生の頃から友達って言うし、 |島香《しまか》先生のこともあったし、過保護になっちゃうのは仕方ないか。 「星座の能力者のことを整理すると、 なおきがへびつかい座で、|鈴原《すずはら》先輩がおひつじ座で、 双子の先輩がその名の通りふたご座ってわけか。 ・・・へびつかい座があるってことは13星座って考えていいのか? 能力者は13人ってことで」 「そっか!星座って12星座と13星座とあるもんね。 あれ?|大河《たいが》、星座詳しかったっけ?」 |大河《たいが》は今回の件もあって少し調べたんだ、と言っていた。 |大河《たいが》は今のところ、星座の力は持ってないし、 放課後はお祭りの準備ですぐ帰っているから、忙しいのに。 なんだかんだ言って面倒見はいいし、みんなのアニキだ。 やっぱり頼もしい。私達はあっという間に校門前まで着いた。 今日は|湊《みなと》くんに会わなかったなあ、残念。 けれど、ちょうどなおきくんが通りかかって、私達に声をかけてくれた。 「あなたが|大河《たいが》さん!はじめまして。 僕は|辰巳《たつみ》なおきといいます。|湊《みなと》くんと同じクラスで弓道部なんですよ」 「おう。丁寧にありがとな。 ほのかから話は聞いてるぜ。俺は|七木大河《ななきたいが》だ。よろしく」 「はい!よろしくお願いします。 また何かありましたら情報共有させていただきますね。それでは!」 なおきくんは|天文部《てんもんぶ》の校舎に、私達は|文学部《ぶんがくぶ》の校舎へ、それぞれ向かっていく。 私が下駄箱を開けたら、なにか入っている。 手紙・・?誰からだろう。 今は|大河《たいが》もいるし、教室に行って開けたら くるみちゃんに大騒ぎされそうだし、家に帰ってから開けようかな。 手紙をこっそりカバンにしまって、私は教室に向かった。 やっぱり教室に入ればくるみちゃんがいて、相変わらず元気いっぱい。 昨日あんなことがあって怖くなかったのかな? そう思うと、くるみちゃんって意外とたくましいのかもしれない。 そしてお昼休憩になった。 家に帰ったら読もうと思っていたけれど、 私はあの手紙を本当は読みたくて仕方がない。 なんとか一人になれる場所はないかな、と考えて思いついたのが図書室だった。 夜の図書室は怖いけれど、昼間使うには何も問題ないし、本を読みたい人しか集まらないものね。 お昼ごはんを食べたあと、 私は手紙の入ったカバンを持って慌てて図書室に向かった。 くるみちゃんが一緒に行くと行っていたけれど、 |大河《たいが》がそっとしておいてやれと止めてくれた。 ありがとう!|大河《たいが》。 私は図書室の端の座席に座って手紙をこっそりと取り出す。 この丸いシールは、シーリングスタンプっていうんだよね。おしゃれなやつ! 便箋もきれいな青色で素敵。開けるのがもったいない。わくわくしながら封を開けた。 「|稲荷《いなり》さんへ 学校だと学部も違うし、僕も人に捕まっちゃうから、話すタイミングがあまりなくて・・ 連絡が取れますようにという気持ちを込めて手紙を書いてみるね。 |稲荷《いなり》さんをもっと知りたい。 話しながらでも水族館に行きたいと思うんだけど、どうだろう? 静かに過ごしたいから二人きりがいいかな。 でも、ただ出かけるだけじゃ面白くないから・・。 そうだ!|稲荷《いなり》さん、小テストはいつも何点くらいかな? もし平均より下だったら僕の家で勉強会をしよう。 それで次の小テスト平均より上だったら一緒に行くってことで。 あ、これは僕がどれだけ教えられるか、の課題でもあるからあまり深追いしないで。 平均より下だったらなかったことに。 今度の土日から僕の家で待ち合わせで。それじゃまた。」 |湊《みなと》くんからの手紙だった。字もきれい・・。 というか、なんで私が勉強全般苦手なのが分かったんだろう・・。 そもそも勉強が苦手とか、成績について話したことあったっけ・・? そう、私は小テストに限らず、テストはいつも平均より下なんだよね。 もし次のテストで平均より上だったら、こ、これは・・デートなのかな・・? 二人きりがいいって書いてるし!! それは嬉しいんだけど、|湊《みなと》くんはどうして私なんかを? 色々と考えていたら、顔が真っ赤になっていた。 手紙を隠すために使っていた星座の神話の本が倒れそうになったのを抑える。 周りからは星座の神話の本を見ながら ニヤニヤと笑っているおかしな人に見えていたみたい。気をつけないと。 手紙を大切にしまって図書室をあとにする。 戻ってきたら、くるみちゃんが眉間にシワを寄せているように見えたけど、私悪いことしたっけ? くるみちゃんには恋愛小説を読んでいたよ!とごまかしておいた。 どうしよう、ドキドキが止まらないよ。 恋愛小説よりもドキドキしてるもん。 テストの点数を上げなくちゃ! と午後の授業は人が変わったように張り切った。 けど、分からないものは分からなかった。 分からない・・と歯を食いしばりながら あっという間に時間が過ぎてしまい、一問も当てられないまま、授業は終わってしまった。 放課後に廊下を歩いていると、|星華《せいか》先輩と|月華《つきか》先輩がいた。 |月華《つきか》先輩が心配で|星華《せいか》先輩が迎えに来たところだったみたい。 二人とも穏やかな表情をしていて一安心。私は二人に挨拶をする。 「こんにちは、|月華《つきか》先輩!学校は馴染めそうですか?」 「ええ。|星華《せいか》やめりのも見守ってくれているから、なんとか大丈夫。ありがとう。ほのか」 この間会ったときは、か細い感じの声だったけれど、 じっくり聞くと透き通ったきれいな声の良い部分が強く出る。 「|月華《つきか》、部活はどうする?出る?休む?」 「・・最近体がなまっているから、出るわ」 |星華《せいか》先輩が心配そうに|月華《つきか》先輩を見つめる。 部活もしているんだ。でも体がなまるってどういうこと・・? うーんと考え込んでいるところに|月華《つきか》先輩がにやりと笑う。 「あ、ほのか。私達、黙っていたけれど・・剣道部だから。強いわよ」 |月華《つきか》先輩も|星華《せいか》先輩も剣道部だったのか! 確かに今日開いた星座の神話の本でも ふたご座は二人で協力して戦ったって書いてあったし・・何かの縁なのかな・・。 |湊《みなと》くん、なおきくんたちに加えて運動部率高いなあ。 「それじゃ!私達部活に向かうから。ほのかも気をつけて帰ってね」 |星華《せいか》先輩と|月華《つきか》先輩はそのまま走っていってしまった。 今日も見学に行くわけには行かないから、私も帰ろう。 今度の土曜日・・といっても今水曜日だから時間がない。 色々準備しなくちゃ。 大慌てで家に向かって走る。走るのは得意。 風が気持ちいい。 ドキドキした気持ちを抑えたくて、ひたすら走った。 あっという間に家に着いたけれど、息切れしてきた。 「た、だ、い、まーー!!」 「おかえり、ほのか。マラソンでもしてきたのか?」 「そ、そんな感じ!」 家に着くと、やっぱりおばあちゃんがいた。 私があまりにも息切れしていたから、 ちょっと心配そうな顔をして「水分補給してや」とだけ言って、生ゴミの入ったコンテナに蓋をした。 お母さんに事情を話したら、私よりもお母さんがビックリして、 手に持っていたフライパンを落としてしまった。 「そ、そ、それは・・本当なのね? ほのかがお勉強を教えてもらえるのね・・。 お母さん助かるわぁあああ!!!」 「お母さん、そこまで喜ばなくてもいいんじゃない?」 「人に何かを教えるって教わるよりも大変なことなの。 |瀬名《せな》くんに感謝しないと。土日だっけ? 明日には差し入れのお菓子を用意するから当日忘れずに持っていくのよ」 お母さんは大げさだなあと思った。 けれど、教えるってことは学校の先生みたいなことをするんだよね。 教科書を見ながら説明して、間違えている所があれば教えて、 正解していたら褒めて・・・ひとりひとりを見て成長させるって大変なんだよなあ。 そんなことを考えながら、私は自分の部屋に向かう。 当日着る服を考えなくちゃ! どうしよう!和服みたいなものだとお出かけには浮いてしまうだろうし、何がいいかな・・? 夏だし、制服と似たような感じだから、セーラー服みたいなデザインのお洋服にしよう。 これなら大丈夫!私は土日用の服をカゴにしまった。 これで大丈夫・・だよね?  頭が落ち着かなくて、私はベッドに倒れ込む。 「そういえば、|大河《たいが》の家以外で男の子の家に遊びに行くのってはじめてかも・・」 うつ伏せになって、ボーッっとしようとするけれど、|湊《みなと》くんのことが頭から離れない。 今日は会えなかっただけでなんだか残念な気持ち。 きっと、|湊《みなと》くんが好きな女の子たちはみんなこんな気持ちなんだよね。 ・・・好きな? いやいや、私は|湊《みなと》くんに憧れているだけで、 す、好きとかじゃない・・よね? でも、|湊《みなと》くんが私を気遣って言ってくれる言葉や行動が最近嬉しくなっている。 憧れでただ遠くから見ていただけなのに星座の力をきっかけに話す機会も増えた。 私が|湊《みなと》くんに近寄ったことで女の子たちが怒ったり不機嫌そうにするのも分かる。 それに|湊《みなと》くんは私のこと、面白いって言ってたから、 勉強会もきっと人間観察のような感じかもしれないし。 「私、どうしたらいいんだろう。 とりあえず手紙に|湊《みなと》くんの家の住所と地図は書いてあったし、 何とかなりそうだけど・・・どうしたらいいんだろう」 眠れない日が続いて、あっという間に土曜日になってしまった。