星空の解放日
麦星すばる
恋と愛
「くるみお嬢様、今日も学校をお休みされるのですか?
今まで休んだことなんてなかったのに」
「ええ。気持ちが落ち着かないので」
私は学校を休み続けている。いじめられても休んだことがなかったのに。
いなほちゃんが二人から告白されたことでショックを受けて休んでしまっている。
私もこんなにショックを受けるとは思っていなかった。
霜村さんと紅茶を飲みながらゆっくり過ごしている。
「霜村さん、恋とはなんでしょう。恋に性別は関係あるのでしょうか」
「難しい質問ですね。恋は・・きっと、人に抱く特別な感情だと思います。
愛おしいとか守りたいとか大切とか・・
色んな思いが入り混じって、特別というのではないでしょうか。
好きになるということは、自分にも同じように
相手に愛情を求めることでもある・・なんといえばいいんでしょうね」
そして霜村さんは付け足す。
「性別は関係ないと思いたいですが・・・。
一般的には男女ですから、同性愛になると大きな壁がありますよね」
「大河くんと瀬名くんが羨ましいですわ。思いを告げられるのですから。
でも私は・・・言えばきっと嫌われますわ。思う気持ちに性別なんてなければいいのに」
「くるみお嬢様は友達以上に稲荷様がお好きなのですか?」
「ええ。あの日からずっと。いなほちゃんとお話できるように身だしなみもコミュニケーションも頑張ってきました。
でも、いなほちゃんからしたら、私は普通のお友達なんでしょうね」
私は紅茶を飲み干す。「おかわりはいりますか?」
と霜村さんに聞かれ、おかわりを淹れてもらう。
紅茶に映る私の顔は明るいとは言えなかった。
それじゃあいなほちゃんに嫌われても仕方ない。
「私、いなほちゃんにくるみちゃんには私の気持ちは分からない!と言われてしまいました。
けど・・いなほちゃんも私がこんな感情を抱いているのは分からないでしょうね。
分からないほうがいいですよね」
「稲荷様もお二人からの告白を受けて混乱していたのだと思いますよ。
そしてくるみお嬢様のお気持ちは無理に伝える必要はありません。
自分の胸の内にしまって、大切にされるのもまたひとつかと」
「なるほど。必ずしも伝えなければいけない、わけではないのですね」
「ええ。恋は難しくても愛ならきっとできます。見守るように、思い続けるのも愛かと。
特別な関係になることだけが愛ではありません。言わないことで今の関係が続くなら、言わなくてもいいのです」
私はただ、いなほちゃんを慕っていた。大好きだった。
それだけで頭がいっぱいになっていた。
いなほちゃんのことを考えず、ただ走っているだけだった。
「・・・難しいのですね、人間の感情は」
「ええ、とても。今はAIの発展もありますがAIですら人間の感情は理解できないでしょう」
「私、いなほちゃんに謝らなければいけませんね」
窓から見える青い空。今頃いなほちゃんたちは学校で授業を受けている頃かしら。
いつもだったら、私もそこにいて、たまに遅刻しそうになるいなほちゃんを大河くんと一緒に心配して、見守って、一緒にお昼を食べて。
そのいつも通りが愛おしくて。
そんな中、瀬名くんと大河くんがいなほちゃんに思いを告げて。
私もいなほちゃんもどうしたらいいかわからなかったのだと思う。
それでも、いなほちゃんも大河くんもいつもどおりに振る舞おうとしていた。
瀬名くんはどうかわからないけれど。
・・人の気配がする。扉が開く。
「やっほー!学校休んで何考えているのかな?」
「お姉様・・!!」
そこには桃羽お姉様がいた。
ショートヘアでみつあみの部分だけピンク色に染めている。
文学部の先輩をいじめたとか。
普段は学校には行かずあちこち出かけているはずなのに。
「お姉様、あなたの行動でどれだけの人が迷惑をかけたと思っているんですか!」
「さてさてー、そんなこと、くるみが知ってどうするの?
|星天祭《せいてんさい》のときはすっごく盛り上がるお祭りをするつもりだから、楽しみにしててね!
ま、星座の力に目覚めていないくるみには関係なかったか!んじゃ!」
星天祭は星ノ川学園でいう大きな文化祭行事。
それ以上に盛り上がるお祭り・・となるとろくでもないんでしょうね。
いなほちゃんに言った方がいいのかしら。
でも今は。
そう考えているうちに桃羽お姉様はそのままどこかへ行ってしまった。
古坂家の者なのに言葉遣いもなっていない、そんな桃羽お姉様が心底嫌いだ。
「相変わらず自由ですね、桃羽お嬢様は」
「ええ、だから嫌いなのですわ。・・星天祭のとき?
このことはいなほちゃんに言わなければいけないですね・・でも・・・」
「見守る愛なんて、私にできるのかしら」
結局私は覚悟が決まらず、
霜村さんと恋と愛の話をしながら過ごし学校に行くことはなかった。
もうすぐ夏休みなのに。