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星空の解放日 麦星すばる

受け止める

翌日。 私は中庭を歩いていると、とんでもない場面に遭遇してしまった。 天文部の男の子と見てすぐ可愛いと分かる天文部の女の子がいる。 お団子結びで小柄で守りたくなるような女の子。 小動物みたいな子ってこういう子のことをいうんだなって。 それはさておき、こ、これは告白しようとしているのでは・・。 私は木陰に隠れて様子を見る。 「|小清水《こしみず》!俺、小清水のこと、ずっと好きだったんだ!つ、付き合ってください!」 「ごめんなさい。私、好きな人がいるから・・。その人に好きな人がいたとしても、私は最後まで諦めない、です」 「その好きな人って瀬名だろ、瀬名にも好きな人がいるって言ってた。それが小清水じゃなかったらどうするんだ?」 「・・それでも、私、湊くんのことが好きですから・・」 「どうして、そこまで・・」 湊くんが好きな子!? もしかして取り巻きにいた子かもしれない。 「私、小学生の頃から湊くんが好きなんです。 クラスもずっと違ったし、今も違うけど、それでも・・湊くんのこと、諦めません。 今日告白します」 「そ、そっか・・がんばれよ」 男の子は去っていった。女の子は「ふう」と一息ついたあと 「告白する、って言っちゃった。湊くん・・お願いしたら来てくれるかな、どうしよう」 とそわそわした様子で去っていった。 あの子、小清水さんっていうんだ。 天文部だけど湊くんとは違うクラスって言ってたよね。 じゃあ湊くんとは面識はないのかな。 学校だと湊くんに会わないように ってめりの先輩から言われてるし、直接聞くのは難しいかなあ。 今日告白するのか・・湊くんに告白されているからなんだか心が苦しくなる。 あっという間に放課後。 めりの先輩に会うために図書室に来た。 だけど、来たタイミングが悪く、めりの先輩に口を塞がれ、本棚の影に隠れている。 そう、小清水さんと湊くんがいるのだ。告白の場所に図書室を選んだみたい。 「・・湊くん、こんな場所に呼んでごめんなさい。 私は隣のクラスの|小清水杏奈《こしみずあんな》です。 湊くんとは同じ小学校だったけどクラスも違ったし、 天文部だけどここでも違うクラスで・・。 でも、ずっと湊くんのこと、見てました」 「小清水さん・・僕には好きな人がいるって・・」 「はい、分かってます・・。湊くんとはあまり話したこともなかったから、 私のことは知らないと思うけど、それでもずっと、憧れていました。 湊くんに好きな人がいても、叶わない恋だとしても、 私は、湊くんのこと、好きなままでいたい、な」 「ありがとう。でも小清水さんが見ている僕は、本当の僕じゃないかもしれないよ」 「・・私、湊くんに助けてもらったことがあるから。 運動会で怪我したとき、保健室に連れて行ってくれました。 だから優しい人だって思ってます。 今日は私の話を聞いてくれてありがとう」 小清水さんが笑顔になった途端、湊くんが小清水さんの手を握る。 湊くんが何かを感じ取ったようだった。 「・・小清水さん、星座の力持ってる?」 「湊くん・・!?え、えっと、星座の力なんてないです! でも湊くんとは・・敵同士になりたくな・・あ、なんでもないです!」 小清水さんは慌ててそのまま立ち去ってしまった。 湊くんは私達が隠れている本棚に近づいてきた。 「鈴原さん、稲荷さん。盗み聞きはよくないよ」 湊くんの顔が怖い。私とめりの先輩は「ごめんなさい」と謝った。 「湊くん、小清水さんの星座の力って・・?」 「分からない。けど僕に話しているとき、小清水さんから星座の力を感じたんだ。 だから何かの星座の力の持ち主であることには違いないよ」 「敵同士になりたくない、ってすっごく怪しいわね。桃羽側についてるかも」 「え、優しそうな子なのに」 「人は見かけによらず、よ。でも力で攻撃するような感じではなかった。 力を増幅させるような力なのかしら・・?敵同士になりたくない、でも湊くんには力が発動していた」 「やっぱり・・湊くんが好きだから、かな・・」 私は湊くんに思いを伝える様子の小清水さんを思い出して胸が苦しくなった。 小清水さんみたいに沢山の人が湊くんを好きだったから。 「稲荷ちゃん、気にしちゃだめよ。 稲荷ちゃんが罪悪感を持つことじゃないし、 瀬名くんだって選ぶ権利はあるんだからね」 「ありがとうございます、めりの先輩」 「学校では会わないようにって言ったのに、 あなたたち、よく会うわね、これも困ったものね」 湊くんが「すみません」とめりの先輩に謝る。 めりの先輩はため息をついている。 「稲荷ちゃんも今のところ、なにもないわね?」 「はい、今のところは大丈夫です」 「カバン隠しもなんだったのかしらね。 稲荷ちゃんのお母様が十蟹先生に相談したから なんとかなってるようなものだけど、気をつけなさいよ。 今日話そうとしてたことはまた今度話すわ。 帰りが遅くなると心配されるんでしょ?それじゃ、お疲れ」 めりの先輩はそのまま図書室に残り、情報収集をするらしい。 私と湊くんはタイミングをずらして校舎を出る。 それから見えないであろう場所で合流する。 「あ、あの、湊くん。告白されるってやっぱり、慣れてるの・・?」 「慣れてないよ。慣れちゃいけない。 相手が大切な思いを伝えてくれているから、それはきちんと受け止めないといけないって思う」 「そ、そっか。湊くんはたくさん告白されてるから慣れていると思ってた、ごめんね」 「そう思われても仕方ないよね。 たまにクラスでもどうしてお前ばっかりって言われること、あるよ。 僕は沢山の人に好きと言われるより大切な一人に分かってもらえればそれで・・」 湊くんはみんなの憧れだから告白されるのも日常茶飯事で慣れていると思っていた。 けど、思いを受け止めることって軽々しくしてはいけないんだよね。 小清水さんも緊張しながら自分の思いを湊くんに伝えていた。 湊くんはその軽くない思いをずっと受け止めてきたんだ。 「わ、私、告白とかされたことがなかったから、どうしたらいいか、分かってない」 「それを言ったら、僕も告白したけど、これでよかったのか、分かってない」 思わずふたりで笑ってしまった。私達、こうして笑えるようになったんだ。 歩いているうちにいつもの分かれ道。 「それじゃ、気をつけてね、稲荷さん」 「うん、またね!湊くん」 ・・・あ、ここは「稲荷さん」なんだ。 やっぱり名前で呼んでくれるのは電話だけなんだ。 ちょっとだけさみしくなった。 どうしてさみしくなったんだろう。 大河に名前を呼ばれるのは当たり前だったのに、湊くんから初めて名前を呼ばれて嬉しかった、から? もっと呼んでくれてもいいのにって思ってしまった・・? 頭がゴジャゴジャする。