星空の解放日
麦星すばる
影
翌朝。お母さんは学校に電話をしている。
「もしもし、文学部1年の稲荷の母ですけど・・十蟹先生はいらっしゃいますか?
・・・はい、お世話になってます。稲荷です。
昨日、娘のカバンを誰かに隠されたようで・・」
お母さんは十蟹先生に昨日のカバンの件を報告している。
あんなことがあったら、心配するよね。
私も時間だからでなくちゃ。
おばあちゃんに「いってきます!」と挨拶をしてそのまま学校へ向かう。
今のところ、何事もないけど、警戒しなくちゃ。
「おはようございます。ほのかさん」
なおきくんが走って、やってくる。
「な、なおきくん!?おはよう。どうしたの?」
「あ、いや、状況が状況なので一応。コホン。
ほのかさんと特別な相手としてお近づきになりたいわけではなくて、湊くんに頼まれたんですよ。
ほのかさんが何かに巻き込まれてないか見て欲しいって。でも大丈夫そうですね」
「うん、昨日カバンを隠されたけど見つかったし、今のところは大丈夫かな。
なおきくんにまで心配かけてごめんね」
「いえいえ、友達が困っていれば助けるだけですから。それじゃ、このへんで」
なおきくんは湊くんが頼んだんだ。そうだよね。
二人でいられる状況じゃないもんね。湊くんもなおきくんも優しいな。
「ありがとう、なおきくん!」
私はなおきくんに声をかけて、そのまま文学部の校舎に向かう。
—一方、教室では
「稲荷って七木や古坂のガードがなくなれば話してみたいんだけど。
なんか誰にでも優しいし」
「それな!」
「木登りやめてから女子力が増したというか・・」
「勉強できないのは?」
「俺らが教えりゃいいじゃん」
「|流星《りゅうせい》が勉強を教える?
SNSとかスマホの使い方を教えるの間違いじゃねえの?」
「だから、俺らがって言ってるじゃん」
そんな会話をしていることを私は知らなかった。
私は階段を駆け上がり、教室に向かう。
今日は寝坊しなかった。そして扉を開ける。
「おはよう!」
私が挨拶をすると、一人の男子が近づいてくる。
「稲荷さん、おはようございます!なにかできることがあれば何なりと!!」
「ええええ!?急にどうしたの?その気持ちだけで嬉しいよ。ありがとう。」
「ありがとうございます!!」
「あ、流星!!抜け駆けはずるいぞ!」
クラスの男子が急に優しいような。
流星くんこと|秋月流星《あきづきりゅうせい》くん。
いつもクラスのムードメーカーで
明るいお調子者なんだけど急に敬語になったりしてどうしたんだろう。
私が席につくと、大河はため息を付いている。
「ほのか、おはよう。古坂は今週休みだってさ」
「そっか・・」
私がひどいこと言ったからかな。くるみちゃん傷ついてなきゃいいけど。
今日はくるみちゃんがいなくて、安心したような、どこか寂しさを感じた。
大河に話しかけるのも気まずくて、今日は一人で過ごすことが多かった。
そして、あっという間に下校の時間。今日は早く帰ることにした。
—そして、放課後
誰もいないはずの文学部の教室。
秋月流星をはじめとする男子が何人か残っている。
「はい、女子について語る会をはじめまーす!」
流星の掛け声で周りは盛り上がる。
「今日、稲荷と話せたよー!!めっちゃ優しくて笑顔がイイ!!」
「流星いいなー。そういえば、稲荷って瀬名の取り巻きに混ざってたんだよな・・?」
「言われてみれば、湊くーんって言ってたような」
「でも、最近瀬名の呼びかけで取り巻きも解散してるし、七木や古坂のガードがなければ普通に優しいし、俺達にもチャンスがあるかもしれない」
「え、でも、瀬名といっしょに登校したり帰ったりしたんだよな?それじゃチャンスなくね?あと七木と古坂のガードがやっぱり固い」
「七木と稲荷と古坂は同じ小学校だったし、七木がいつも稲荷の近くにいるしなあ」
「古坂は美人だけど、稲荷と七木以外は眼中にない感じだから俺たち相手にされないし・・」
「本当、美人がもったいないよな」
男子たちがケラケラ笑っていると、扉が開く。
そこにはめりのがいた。
「あら、文学部のみなさん。こんにちは。教室でこんな話してていいのかしら?」
「げ、天文部の鈴原めりの・・先輩」
「これ以上、話すようなら新聞に載せちゃおうかしら」
「そ、それだけはご勘弁を!」
「じゃあ黒板に書いてる可愛い女の子ランキングを消す、さっきの話をするなら学校の外でやりなさい。
じゃないと稲荷ちゃんと古坂ちゃんにバラすわよ。こんな風に誰が見ているかわからないんだから」
「すみませんでした!」
「行ったか。俺達も帰るか」
「・・・こうなったらあれを使うしかないな」
「流星。あれって?」
「いや、なんでもない」
—弓道部
僕はなおきくんを呼んで倉庫にいる。
「稲荷さんってやっぱり人気者だよね」
「え?今更何を言うんですか。
ほのかさんは優しいし可愛いですから
人気者になっててもおかしくないのでは・・?」
なおきくんは正論を言う。
「そうだよね。今まで注目を浴びなかったのが不思議なくらい。
なおきくんにとって、稲荷さんは特別ではない。
だから登校時の見守り、頼んだんだけど」
そう、僕は稲荷さんと距離を置いた方がいいと言われて、
彼女を守るためにも学校では一緒に行動しないようにしている。
そこでなおきくんに見守りを頼んだというわけ。
「・・ただ、毎日僕が見るとほのかさんのご負担にもなりますし、
今度は僕がほのかさんを好きなんじゃ・・?って疑われそうですよね。
あ、そうだ。鈴原先輩に助けを求めるのはいかがでしょう?
前、一緒に帰られたんですよね?」
「なるほど。その手があったか。・・終わったら付き合ってもらっていい?」
「もちろんです。まあ、星座の力を使う特訓、とかにならなきゃいいですけど」
僕たちは部活動終了後に鈴原さんがいる図書室に向かう。
やはり図書室には鈴原さんがいた。
いつものように羊の上に乗っている。
「あら、瀬名くん。辰巳くん。特訓する気になった?」
鈴原さんは星座の力を持った人たちで特訓をしたいと言っていた。
けれど今日は別件。
「い、いえ。今日はお願いがあってきました。稲荷さんの・・・」
「稲荷ちゃんのこと? 私に任せなさい。
新聞部のネタ探し密かにやってる私を甘く見ないでよね」
僕が言い終わる前に鈴原先輩は用件を理解してくれた。
「ありがとうございます!」
「これから稲荷ちゃんの見守りはするから。
・・気をつけて帰りなさいよ。あと、特訓も参加できたらよろしくね」
鈴原さんに稲荷さんを託せてホッとした。
なおきくんも帰りが遅いと厳しい家なのですぐに帰る。
「いやあ、鈴原先輩が話の分かる先輩で良かったですね!」
なおきくんはニコニコしながら歩いている。
そして僕はなおきくんに問いかける。
「・・あのさ、なおきくんは稲荷さんを見てもドキドキしない?」
「え!?・・ええ。あ、でもほのかさんのことが嫌いとかではないんですよ。
良き友人でありたいと思っています。
僕はまだ人を好きになるって分からないですし好みも人それぞれです。
だから力及ばないところもあってすみません」
「そんなことないよ。なおきくんは分からないのに僕の話聞いてくれてる。ありがとう」
なおきくんは分からないと言っていたけれど、
人の気持ちはすごく理解してくれるから、話していて安心する。
だからつい色々と話してしまう。なおきくんは考え込んで僕に話す。
「いえ。湊くんがほのかさんを心配になる気持ちは分かります。
でも、心配しすぎるとほのかさんが自分の答えを見つけるのが遅くなると思うんです。
ほのかさんを見守って、本当に困っているときに手を差し伸べる、
それくらいの距離感が今はいいんじゃないでしょうか。
近寄りすぎて嫌われることもありますから。
湊くんだって取り巻きに囲まれていたとき、すごく疲れていたでしょう。あんな感じです」
「うん。ありがとう。あまり過保護にならないようにする」
なおきくんと別れて家に向かう。
家についたら電話を握りそうになったけれど、過保護にならないようにするって言ったもんね。
今日はやめておこう。翌日にあんなことが起きるとは思っていなかった。