星空の解放日
麦星すばる
ターゲット
翌朝。寝坊してしまった。
「わーー!!!遅刻しちゃう!!」
私は慌てて、身支度を整えてそのまま家を出る。
間に合わない。
なんとか校門前まで走りきった。
そこにはみ、湊くんがいた。
「おはよう、稲荷さん。僕も寝坊しちゃって・・」
「み、湊くん!?ゆっくりしてたら遅刻、しちゃうよ!?」
「そ、それもそうだね・・。それじゃ」
湊くんと急いでいるのが重なって息切れしそうになった。
湊くんは落ち着いているようで、少し緊張した様子で天文部の校舎に向かっていった。
私は文学部の校舎に急ぐ。
木登りはもうしない。
女の子って思われてしまった以上、そんなことしてられないよ!
急いで階段を登り、教室に入ると、既に十蟹先生がいた。
「稲荷さん、おはようございます。ピース。まあ1分前だからセーフにしますね」
「ありがとう、ございます!!十蟹先生!」
なぜか周りから拍手が響く。
大河とくるみちゃんが見守るように眺めている。
そして私が席につく。
「木登りすれば間に合ったかもしれないのに」
「ううん、木登りはもうやめるの」
「あの、いなほちゃんが・・」
大河とくるみちゃんは驚いた様子で私を見ている。
そのおしゃべりが聞こえたようで
十蟹先生が「静かにしましょうね、ピース」と穏やかに注意する。
お昼休憩。
いつものように大河とくるみちゃんと昼食のはずだったけれど。
「わりぃ、ちょっと用事があるから今日は古坂と二人で頼むわ」
大河はどこかへ行ってしまった。
くるみちゃんと二人きりになってしまった。
「あの、いなほちゃん。大河くん、いなほちゃんに思いを伝えたのですね?」
「え・・えーっと」
「その反応は間違いありませんわ!ついに!ついに!ですわ!!」
くるみちゃんがすごく喜んでる・・。
めりの先輩じゃないけど、やっぱりやじうまみたいだな・・。
くるみちゃんには湊くんから告白されたことは言わないほうが良さそう。
「・・なんで、そんなに喜ぶの?」
「私、いなほちゃんと大河くんが大好きですから。お二人が幸せなら私も幸せですわ」
「大好き・・か。どうして大河を選ぶ話で進んでるの?」
「え・・?いなほちゃんは大河くんがお好きなのではありませんの?」
くるみちゃんはきょとんとした顔で私を見つめる。
「やっぱり、瀬名くん・・?瀬名くんの邪魔が入ったのですね!?」
「湊くんは邪魔じゃないよ。そういう風に言うのやめようよ」
「ごめんなさい。じゃあいなほちゃんは・・誰が特別なんですの?」
「・・ごめん。くるみちゃんには私の気持ちはわからないよ!」
くるみちゃんには悪いけれど、私は階段を降りて走っていく。
くるみちゃんは「いなほちゃんのばか!」と大声で叫ぶ。
そしてなにか呟いたようだったけれど私には聞こえなかった。
「・・・いなほちゃんに私の気持ちは分かりませんわ。分かっても、引かれるだけですわ」
午後の授業は気持ちが落ち着かなくて、体調不良と嘘をついて保健室で休んでいた。
ベッドで寝込んでいると、喋る声が聞こえる。
「この間の湊くん、すごかったよね」
「僕には好きな人がいる。弓道部の入部志望者以外の見学はやめてほしい。
静かに帰りたいから集まらないで。・・それで取り巻きの子たち朝は集まらなかったよね」
「湊くんの好きな人か。誰だろ?」
「・・取り巻きの子たち、ガチ恋勢だったし、嫉妬深いから大変だろうね」
「あ、もうこんな時間。出なくちゃ!」
・・・やっぱり、そうだよね。
湊くんの取り巻きの子たちは湊くんのことを本気で好きだったんだ。
嫉妬深い?
なにか騒動にならなきゃいいけど・・私も気をつけよう。
私はそのまま眠っていた。
—弓道部
僕が上げた声で取り巻きたちはいなくなり、静かな弓道部に戻った。
「いやぁ、この間の湊くんの一言で取り巻きの子たちはいなくなりましたね」
「うん」
「静かになったはずなのに、湊くんの狙いは定まりませんね。
ちょっと倉庫に行きましょうか。あ、変な意味じゃないです」
「分かってるよ。なおきくん」
僕となおきくんはこっそり倉庫に向かった。
「僕でよろしければご相談に乗りますよ。
・・まあ、ほのかさんのことでしょうね」
「うん。僕は・・稲荷さんに告白した」
「・・って本当にほのかさんのことでしたか!?」
なおきくんが声を上げそうになったのを僕は抑える。
「コホン。恋愛については分かりませんが、
湊くんにとってほのかさんがとても大切な人というのは分かります。
自分の思いを正直に告げたことは立派です」
「そこまで褒められるとは思ってなかった」
「僕だって縁のない話ですからね、湊くんが羨ましいですよ。
で、何で悩んでいらっしゃるんですか?」
なおきくんにどんどん相談していく。
「なおきくん、大河は知ってる?大河もずっと稲荷さんが好きだったんだ。
今日、昼休みに天文部に来て、大河も稲荷さんに告白したって。
・・・僕は自己満足で稲荷さんに思いを告げた。
稲荷さんも大河も優しく振る舞ってくれたけど、
結局僕は稲荷さんや大河の優しさに甘えていただけだったんだって」
「ああ、大河さん。登校時にお会いしましたね。
なるほど。大河さんもほのかさんがお好き・・と。
まあ、告白する権利があるように告白される側にもOKしたり断る権利もありますからね。
思いを伝えたことを後悔することはないと思います。
湊くんは優しすぎますし、周りに合わせるところもありますから、善意や優しさに甘えていいんですよ」
そして穏やかな表情からなおきくんは少しずつ真剣な表情に切り替わっていく。
「ただ、僕が心配していることは・・。これまでたくさんの人が湊くんを応援していて湊くんを好きだったんです。
湊くんがほのかさんを好きであるように。湊くんはこの間の一言でたくさんの人を振ってしまいました。
それは仕方ないのですが、ほのかさんも最初は取り巻きの一人だったそうです。
ほのかさんは優しいのでその人たちのことも考え込んでしまっていないか心配です。
自分の返答次第で湊くんと大河さんと友達でいられなくなったらどうしようって考えているかも・・・。
まあ僕の考えすぎかもしれませんが」
「・・・僕のせいだ。僕は沢山の人を傷つけてしまった。稲荷さんも大河も困らせてしまった」
「これはあくまで僕の推測です。湊くんもあまり自分を追い詰めないように。
ただ、湊くんの取り巻きはガチ恋勢とも言われていて、危険な方もいらっしゃったようです。
用心したほうがいいかもしれませんね」
「分かった。ありがとう」
僕たちは倉庫から出て練習を再開する。
弓道部に稲荷さんが見えなくなってさみしくなる。
結局、今日は狙いも定まらず不調という形で終わってしまった。
なおきくんと帰ろうと思ったけれど、渡り廊下に稲荷さんと羊・・?
羊ということは鈴原さんがいる?何かあったんだ。
「ごめん、なおきくん。用事があるんだ。今日はどうもありがとう!」
「いえいえ、僕なんかでよければまたどうぞ。それでは」
稲荷さん、今行くから。
—保健室
気づいたらもう部活動終了の時間まで寝てしまい、先生に起こされてしまった。
私は教室に向かい、カバンを取りに行ったけれど、カバンがない。
「カバン・・どこ?」
教室のあちこちを探すけれど、ない。盗まれた?
大河もくるみちゃんも帰ったみたいだし、困ったな。
文学部の校舎をあちこち探すけれど無い。ゴミ箱にもない。
図書室に向かう途中で、めりの先輩とすれ違う。
「あら?稲荷ちゃんじゃない。帰りが遅くなるとご家族が心配するわよ」
「えっと・・私のカバン、誰かに隠されてしまった・・みたいです」
めりの先輩は「なるほど」とうなづき、羊に探させる。
「桃羽の手下かしら」
「手下・・?」
「瀬名くんの件、スクープにはしなかったけど知ってるわ。
稲荷ちゃんが告白されたこともね。
それを取り巻きたちが黙ってるわけないじゃない。
稲荷ちゃんはターゲットにされてしまったのよ」
取り巻きの子たちが黙っていないのは予想できた。
傷ついたかもしれないことも予想できた。
けれど、私がいじめみたいなことのターゲットにされるなんて、思ってなかった。
「誰かが誰かを好きになって、思いを伝えてごめんなさいで傷つくのは分かる。
だからといって、なにかに八つ当たりするのは違うよ」
私は思わず普段の口調で喋ってしまう。
「そうね。恋愛ってお互いの愛情を求めるものだから、見返りが欲しくなるものなの。
私はあなたを愛しているから、あなたも私を愛してって」
「湊くんも大河もそんなことは言わなかった・・です」
「あの二人は優しいからね。優しくできる人のほうが貴重なのよ。カバン探しましょ」
私とめりの先輩と羊たちはカバンをひたすら探す。
確認したけれど文学部にはカバンがなかったので天文部に行く。そこには湊くんがいた。
「稲荷さん!見つけた!何かあったんでしょ、手伝わせて」
「・・湊くん。私のカバンが見つからないの」
「分かった」
湊くんもカバン探しを手伝ってくれた。
天文部のあちこちを探しても見つからない。
最後に湊くんのクラスの教室に入る。
湊くんの机の上に私のカバンと・・なにか張り紙がしてある。
張り紙には「稲荷ほのかの裏切り者」と書いてあった。
「裏切り者って・・。」
「稲荷ちゃん、最初は取り巻きだったからね。
それで瀬名くんに告白されたんじゃ裏切り者に見えちゃうかもしれないわね」
湊くんが深刻そうな顔をしている。
「やっぱり、僕のせいだ・・」
「ううん、湊くんは悪くない。悪いのはこういうことをする人たち!」
私は湊くんを元気づけるように言う。
それを見ためりの先輩はハッキリという。
「稲荷ちゃんと瀬名くんは学校では一緒に行動しないほうがいいかもね」
「え・・?」
「こうなってしまった以上、学校では距離を置くしかない。
どこから情報が漏れたのか知らないけど、二人きりだなんて危険よ。
取り巻きたちへ火に油を注ぐようなものだわ」
分かるけれど、どこか納得がいかなかった。
けれど湊くんは落ち着いていた。
「そうですね。分かりました。
騒動が落ち着くまでは稲荷さんと学校では過ごさないようにします。
僕も稲荷さんに何かあったら悲しいから。
・・何かあったら駆けつけるし、稲荷さんになにかした人を許すわけにはいかない」
「湊くんが言うなら・・。分かった。さみしくなるけど、お互いの身を守っていこう」
「それがいいと思う。取り巻きが桃羽の手下になっていたら大変なことになるわね。
私の方でも調べておく。今日は私も一緒に帰っていいわよね?」
めりの先輩はいつも夜の学校に残っていて、一緒に帰るのは今日が初めてだ。
もしめりの先輩がいなかったら、私と湊くんでふたりきりになってしまうから、それを気遣ってのことだろう。
もう暗くなっており、三人で帰る。
「桃羽先輩は夜の学校にしか来ないんですか?」
「基本そういうことになるわね。今不登校ということになってるから。昼間はどこかふらついてるみたいよ」
「しし座の力・・を分け与えている・・何人くらいだろう?」
「結構多いんじゃないかしら。だから私達だけだと頭数では勝てなくて困ってるの」
例のアイツこと古坂桃羽先輩についての話をする。
めりの先輩は学校の事情通だからいろいろな話をしてくれた。
「いっぱい話せてスッキリしたわ。
稲荷ちゃんも瀬名くんも気をつけて帰ってね。
ここは校舎から離れているし、このあたりなら二人でも大丈夫でしょう。またね」
めりの先輩は帰っていくと、湊くんとふたりきりになる。
「稲荷さん、本当にごめん」
「何が?湊くんは何も悪いことしてないよ」
「僕が思いを伝えたことで、稲荷さんや大河に迷惑をかけたよね」
「ううん、伝えてくれたとき嬉しかった。
迷惑だなんて思ってない。むしろ、答えをちゃんと出せてない私が迷惑かけてるよ」
私は落ち着きを取り戻していて、いつも通り話せている、と思う。
湊くんは罪悪感を持っているようで、顔色もどこか悪い。
「湊くん。私が言うのもなんだけれど・・大丈夫だから。
大河も湊くんのこと、気にしてた。私もいつもの湊くんでいてほしいな。
それに何かあったら駆けつけてくれるんでしょ、嬉しかったよ」
私は「水族館のときのお返し!」と言って湊くんの頭をなでる。
そうしたら、湊くんの顔色も落ち着いてきたようだった。
「ありがとう、稲荷さん。あの・・学校だと会えないから電話番号教えてもらってもいい?」
「うん」
湊くんと電話番号を交換した。
これなら学校でお話できなくてもお話できる。すごく安心した。
私は家に帰るとおばあちゃんとお母さんに帰りが遅いと心配された。
怒られるかと思ったけれど、カバンを隠されたことを正直に話すと心配そうな顔になる。
そして何かあったら話すようにと言われた。