星空の解放日
麦星すばる
残したい思い出
私は|湊《みなと》くんとゆっくりと歩いている。すごくドキドキする。
だって、あの、憧れの|湊《みなと》くんとふたりっきりで歩いているんだよ!?
ドキドキしないわけがないじゃない。でも|湊《みなと》くんには聞きたいことがたくさんある。
「ねえ、|鈴原《すずはら》さんってどんな人なの?」
「小柄でとにかくおしゃべりな人、かな。|天文部《てんもんぶ》で取材という名目で捕まってる人たくさんいるから」
「|湊《みなと》くんはなんで捕まらないの?」
「さあ、なんか僕の周りっていつも人混みになってて歩きづらくて・・」
それはね、|湊《みなと》くん。取り巻く女の子たちがいつもいるから近寄れないんだよ。
|鈴原《すずはら》さん、小柄でおしゃべりな人、かあ。
リスさんみたいな感じなのかな。と思いながら私は聞く。
「でもなんでそこまで取材したがるんだろ?」
「なんだか、何も忘れたくないという気持ちからみたいだよ」
「忘れたくない、か」
|湊《みなと》くんの話だけではわからないけれど、
物覚えが悪いとかそういうわけではなさそうだよね。
学園の思い出や生徒たちはそこまでして覚えておきたいこと、なのかな。
確かに思い出は忘れたくない。
だから日記に書いたりするけれど、どうしてわざわざ公の場に載せる新聞なんだろう?
「新聞は確かにずっと残るよね。
バックナンバーもあるくらいだし。
けど、わざわざ生徒のアレコレを残す必要ってあるのかな・・?」
「うーん・・。忘れてほしくないこと、知ってほしいことがあるのかもしれないね」
|鈴原《すずはら》さんは必死で何かを訴えようとしているのかもしれない。
みんなに覚えておいてほしいこと、知ってほしいことがあるとしたらどんなことだろう。
私が知りたいのは|湊《みなと》くんについてなんだよなあと思っていたら口が滑ってしまった。
「私はね、|湊《みなと》くんのことはもっと知りたい。なんで星座の力に目覚めたの?」
「ああ、たまたま放課後、学校に残っていた日。
静かに過ごしたい。と願ったら体が泡になって、周りから気付かれなくなったんだ。
そうしたら、過ごしやすくて。力に目覚めてから、うお座の力を使って、図書室で過ごしていたんだよね。
まあ|島香《しまか》先生も似たような力とは思わなかったけど・・・」
一息ついて、|湊《みなと》くんは私を見つめて言う。
「これからは星座の力も程々にしないと。|稲荷《いなり》さんや|大河《たいが》と話してるほうが面白いから」
「お、面白い!? 私が!?」
私は思わずびっくりして大きな声をあげる。
そんな様子を見て|湊《みなと》くんはそこが面白いんだよと笑顔になる。
嬉しいけれど、面白いって褒め言葉なのかなあ。
女の子で面白い、それってどうなんだろう・・・。
確かにくるみちゃんみたいにお上品ではないけどさ。
「面白い、というか・・その、一緒にいて楽しいっていう意味だから・・」
|湊《みなと》くんが小さい声でなにか言ったみたいだけど、私はちょっと聞き取れなかった。
なにか言った?と聞いても、|湊《みなと》くんはなんでもないと言ってもう一度言ってくれなかった。
あっという間に分かれ道になって。
ドキドキして駆け抜けたから、一瞬で家に着いてしまった。
おばあちゃんに顔が真っ赤で熱でもあるのかと心配されたけど、
そりゃあ憧れの|湊《みなと》くんと話して顔が真っ赤にならない人なんていないよ!とは言えなかった。
私は自分の部屋で日記を書く。楽しかったことは忘れないように日記を書く。
でも|鈴原《すずはら》さんみたいに新聞にしたいとは思わない。
だって自分だけの思いは宝物みたいにしまっておきたいから。
今日、|湊《みなと》くんとお話をしたことをカラフルなペンでいっぱい書いた。
「今日はヘロヘロだったけど、湊くんとお話してすごく元気もらっちゃった」
にんまりとしながら私は日記を眺める。
色んな思い出たちがそこには変わらずに存在した。
読み返すたび、元気がもらえる私の宝物たち。
「・・あー!!
|鈴原《すずはら》さんって普段どこにいるんだろう、聞きそびれちゃった!
|天文部《てんもんぶ》の友達がいないから、|湊《みなと》くんに会ったら聞かなくちゃ!」
明日の楽しみを胸に私は眠りについた。