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星空の解放日 麦星すばる

本当に好きな人

僕は稲荷さんと一緒に水族館をまわっていたけれど、迷子の女の子に捕まってしまった。 そして、僕がインフォメーションセンターまで送り届けることになった。 「おにーちゃん!さっきの子とデートしてたでしょ?」 「ううん、“今は”違うよ」 「うっそー!おててつないでたし、デート!デートじゃないならいまはわたしとデートだね!」 「・・困ったなあ」 僕がイルカショーを避けたのは静かな場所が好きなのもある。 一番は子どもの声が苦手だから。イルカショーは子どもが多い。 稲荷さんには悪いけれど、避けてしまった。 「ねえ、なんで、うそつくの?すきな子とじゃないとおててつながないでしょ?」 「困らせるから。傷つけるから。だから言えない」 「おにいちゃん、かっこいいのにおくびょうなんだね!」 子どもはハッキリと言ってくる。だから苦手なんだ。 でもこの子の言っている言葉は間違っていない。 僕がかっこいいかは別として。 「おにいちゃん、かっこいいし、がっこうでもきっとモテモテでしょ? だけどあのおねえちゃんがとくべつ!!わたしの名推理! わたしがおねえちゃんくらいの年だったらおにいちゃんどくせんしちゃうもん!」 女の子はぼくの手をぎゅっと握る。 僕は女の子の言ったことにヒヤッとしてしまった。 特別・・。そう思われても仕方ないか。 インフォメーションセンターが見えてくる。ホッとした。 「じゃあ、迷子のおしらせを出してもらうから君はここから離れないように」 僕は受付の人に迷子の手続きをする。 すると、すぐに迷子のアナウンスが流れる。 「えー、もうおわかれ? もうすこしおはなししよ?」 「ごめん、さっきのお姉ちゃん待たせてるから行かないと。 それにあっちから走ってきてる人、君のお母さんでしょ。君だってお母さんのところへ行かないと」 放送が流れてしばらくして女の子のお母さんがやってきた。 お母さんがお礼を言うと一礼して女の子とともに去ってしまった。 女の子の後ろ姿を見ていると、 大河は稲荷さんの小さい頃を知っていて、 長い時間を過ごしているんだよな・・と考えてしまった。 おみやげコーナーに戻ると、そこには稲荷さんが立っていた。 「迷子のアナウンス聞いたよ。さっきの子、ご家族の方に会えたかな?」 すぐに会えたと伝えると、 稲荷さんは「良かった!」と自分のことのように喜んでいた。 稲荷さんはやっぱり優しい。 「あの、湊くんって何が好きなの? 水族館も湊くんが誘ってくれたし、おそろいにするなら湊くんが好きなものがいい。 私、湊くんに親切にしてもらってばかりで、 湊くんの好きなものとかまだ分からないから、教えてほしいな」 好きなもの・・か。 そういえばあまり考えたことがなかったかも。 シーリングスタンプ作りは親に言われて始めたことだし。 「僕は稲荷さんが気に入ったものでいいよ」 つい、相手に合わせてしまう。 おみやげコーナーを見ていると、イルカのぬいぐるみと目が合う。 イルカのぬいぐるみは優しい目でこちらを見つめてくる。 何かを訴えかけるように。 「湊くんって本当はイルカ好き?」 「・・うん」 「じゃあ、この子たちにしよう? ショーが見れなくてもこの子たちがいればいいよね」 本当はイルカが大好きというわけではなかったけれど、 稲荷さんの一言でイルカが好きになってしまった。 僕たちはぬいぐるみを手にとって会計を済ませる。 すると稲荷さんのイルカのぬいぐるみの胸ビレと僕のイルカのぬいぐるみの胸ビレがくっつく。 どうやら磁石になっていたらしい。 「・・仲良しだね、この子たち!」 稲荷さんがにっこり笑ってみせる。 「そうみたい」と僕も思わず笑ってしまう。 最初声をかけてくれたときから、その声と笑顔に救われた。 僕は気づいたら稲荷さんの頭を撫でていた。 「!?み、湊くん・・?」 「あ、ごめん。」 もしかしたら、嫌われたかもしれない。 そう思うと胸が苦しくなる。 そっか。僕は・・。ごめん。大河。 水族館を出て、近くにある噴水広場で僕たちは座っている。 稲荷さんは顔を赤らめて僕から目を逸らしている。 僕たちは噴水の音だけ聞きながら、静かに過ごしていた。 イルカのぬいぐるみがまたくっつく。僕は勇気を振り絞って声に出す。 「稲荷さん!・・あの・・。 僕は稲荷さんが助けてくれたあの日から、稲荷さんと一緒にいて楽しかった。 それから勉強会したり水族館に来れて本当に楽しかった。 家も反対方向だけど、一緒にいたくて、早起きもした。」 空気が変わったことを察したのか稲荷さんは目を丸くする。 「周りは僕を文武両道だ、カッコいい、 なんて言うけれど、本当の僕は臆病だし、心を開いた相手にしか話ができないんだ。 今まで好きな人がいる、ってごまかしてきた。 けれど今日はちゃんと伝えるよ」 僕は緊張しながら言葉を紡いでいく。 喋るだけでも息苦しくなる。 それでも伝えなくちゃ。 「本当に好きな人は・・稲荷さんだよ」 稲荷さんは顔を赤くして信じられない様子で僕を見つめている。 「本当に好きな人じゃなければ、勉強を教えたりしない。 学部も違うから一緒にいられる時間も少ないし、 助けてもらって知り合ったから、稲荷さんのことまだわからないけど ・・これから知っていけたらいいなって」 僕は無意識に稲荷さんの手を握っていた。 「これからも守りたいし、ずっと一緒にいたいと思う。 でも、大河もきっと稲荷さんが好きなんだ。 だから・・大河の思いも聞いたうえで、考えてほしい。 僕は伝えられただけで嬉しいよ。今日はありがとう、稲荷さん」 稲荷さんはさっきよりも顔を真っ赤にさせている。 びっくりさせた・・よね。 「・・え、えっと・・湊くんが私を・・す、好き・・!? え、えっと・・。」 「ごめんね。びっくりさせて。稲荷さんの星座の力のこともあって 今言うか悩んだけど、鈴原先輩がもやもやを・・って言うから、伝えちゃった。 僕は聞いてもらえただけで嬉しいから。 返事がほしいとかじゃないから。これからも稲荷さんを見守ってるからね。」 困らせないように、優しく言ってみせたけれど 、やっぱり稲荷さんを困らせてしまったのが申し訳なくなってしまった。 そして、稲荷さんは大河の方が好きなのかな、 なんて考えている自分が憎らしくなった。 「僕がこの思いを伝えることも自己満足だ。 けれど、もしかしたらふたりで一緒にいられるのが最後かもしれないから。 今伝えなくちゃいけないって思った」 「さ、最後・・・??そんなことないよ!」 「・・えっと。これから友達以上の関係でいられるのか 友達でいられるのか、分からないから。・・・・・帰ろうか」 僕は稲荷さんの手を引き、帰る。 僕の手も稲荷さんの手も震えていて、お互いの顔は夕日で照らされて、より真っ赤になっていた。 困るよね、きっと。 僕たちはあまり喋ることもなく、あっという間に分かれ道になった。 「あの、稲荷さん。今日は付き合ってくれて、話を聞いてくれてありがとう。 困らせるつもりじゃなかったんだけど、やっぱり困らせてしまったよね。ごめん」 「う、ううん!ドキドキはしたけど、迷惑とは思ってないから・・大丈夫。 すぐに答えが出せずにごめんね。き、気持ちはすごく嬉しい。ありがとう。」 僕は稲荷さんに手作りのクッキーを渡して、稲荷さんを見送った。 家に帰ると真っ先に電話に向かう。 「もしもし。瀬名ですけど、大河くんはいますか?」 「俺だけど。どうした?湊」 「・・僕、稲荷さんに告白した」 「そうか」 「怒らないの?」 「怒らねえよ。誰が思いを伝えたって、先だろうが後だろうが俺の思いは変わらない。 ほのかが誰を選んだって選ばなくたって嫌われない限りは友達でいられたらって思うよ」 「そっか。大河はすごいな」 「褒めても何も出ねえよ。ほのかも湊に告白されて嬉しかっただろうな」 「驚かせてしまったと思う。今度どう会えばいいか心配」 「なにいつも通りいればいいさ。そうじゃないとほのかはペース崩すからな」 「ごめん。ありがとう。稲荷さんのこと何でも知ってるんだね」 「謝ることねえよ。湊も抱え込みやすいから気をつけな。それじゃ」 大河は優しい。大河のほうがずっと稲荷さんを好きだったはずなのに。 僕は自分の伝えたい気持ちしか考えてなかった。 稲荷さんや大河の優しさに甘えていただけだったんだ。