星空の解放日
麦星すばる
水族館
「み、湊くん!」
私は湊くんと待ち合わせした水族館前にいる。
湊くんが教えてくれた科目が小テストで
平均よりも上だったから約束していた水族館・・で、デート!?
湊くんはもう入口の前で待っていた。
遠くから見ても惹かれるのはやっぱり湊くんが素敵だからだよね。
なんて考えている場合じゃない。私は急いで入口まで来た。
・・もしかして時間よりも遅れてきちゃった・・?
湊くんは私の名前を呼んで駆け寄る。
「遅れてないよ。僕もいま来たところだから」
あれ、遅れてきちゃった?なんて言ったっけ。
「そ、そっかあ。待たせてないか心配になったんだ」
「じゃ、行こうか。稲荷さ。」
湊くんが私の手を握るとそのまま歩いていった。
待って。心の準備ができてない。
「・・あ、ごめん。離した方がいい?」
「う、ううん。大丈夫だよ」
な、なんで手を繋いでくれたんだろう。
力を入れず優しく握ってくれているのが伝わる。
みんなのアイドル的な存在の湊くんとふたりきりでいていいのかな。
というか最初のお勉強会もふたりきりだったし
星座の力をきっかけにふたりでいることも増えたような気がする。
最初は大勢の人に紛れてただ見ていただけだったのに。
ふたりきりでいてドキドキすることも増えた。
水族館で眺める魚を見ていると、
そのドキドキは少しずつ落ち着いてきた。
「アクアリウムよりも、
こういう大きな水槽にいる方がお魚も幸せなんだろうな」
「そうかもしれないけれど、
湊くんはちゃんとお魚さんのお世話して、
大切にしているからお魚さんはきっと幸せだよ」
湊くんが「ありがとう」と優しく微笑む。
湊くん最初出会ったときはこんな風に笑うこと、なかった。
あのとき声をかけて、助けて、それから湊くんどんどん明るくなってきてる。
それはいい変化だよね。
水族館の中を進んでいく。
クラゲがゆらゆらと泳いでいる水槽の部屋にたどり着いた。
暗くてクラゲの水槽だけ明かりが灯っている。
「・・あの、稲荷さん。最初、面白いとか言ってごめんね。
女の子に対する言葉じゃないよね。本当にごめん」
「ううん、大丈夫!大河にもよく言われたし!」
面白いって言われるのはわりと慣れてる。
大河にも言われたし、小学生の頃周りの男の子からよく言われていたから。
謝る必要なんてないのに。
「湊くん。聞いてもいい?
えっと、なんで湊くんは私に親切にしてくれるの?」
なんで私と一緒にいてくれるの?とは聞けなかった。
湊くんの表情は暗くてよく見えないけれど、なんとなく繋いでいる手が震えている気がした。
「・・・前に言ったことと重なるけど。
稲荷さんが助けてくれて今の僕があるから。
助けてくれたお礼。
できることはなんでもしたいって思っただけ。
稲荷さんが勉強苦手なのは大河から聞いてたから、
勉強を教えたりするのはできるかなと思って勉強会もしてみた。
でも稲荷さんならコツさえつかめばちゃんとできるって信じてたよ」
た、大河が言っていたのか。
だから湊くんは知っていて・・。
だから勉強会・・。
これは大河を怒るべきなのか感謝するべきなのか・・。
「ありがとう。あの、湊くん。この間何か言いかけてなかった?」
「え?・・そうだった、かな」
湊くんがぼかす。
でも問いただすわけにもいかないし、そのままクラゲの水槽の部屋を出た。
大きな水槽に囲まれた空間に入ると他のお客さんの姿も見えてきた。
今日はイルカショーもあるし、人がいつもより多い。
湊くんの手を握る力が少し強くなった気がした。
「ご、ごめん。痛かった?はぐれたら嫌だなって思って」
「だ、大丈夫。ありがとう」
な、なんか今日の湊くん、積極的でドキドキが止まらない。
でも湊くんが水族館に行きたい
ってお手紙に書いてたから張り切ってるのかな。
歩いていくとイルカショーの看板が目に入る。
「湊くんはイルカショー見たい?私はどっちでもいいよ」
「・・僕は、静かな場所のほうが好きだから、ショーはいいかな。
稲荷さんが見たいなら行くけど・・」
「湊くんが苦手なら無理していく必要ないよ。
イルカショー以外にも見どころたくさんあるし!」
イルカショーの看板を通り過ぎて、残りの展示を見ていく。
そういえば湊くんと手をつなぎ続けていたんだった。
変な汗かいていなきゃいいけど。そしておみやげコーナーに到着する。
「稲荷さん、せっかくだからなにか買っていかない?・・おそろいで」
お、おそろい!?湊くんとおそろいだなんて、嬉しい!
でも他の女の子たちを敵に回しちゃうよね・・・。
大河やくるみちゃんにバレたらどうしよう。
「学校で身に付けないものだったら
僕とおそろいでも分からないよ、きっと」
「み、湊くん、やっぱり私の心を読んでいるんじゃ・・・。」
湊くんは何がいいかなとおみやげコーナーをあちこち見回している。
すると湊くんがなにかに引っ張られている。
「おにーちゃん!すき!!」
迷子・・かな。小さい女の子が湊くんから離れない。
やっぱり湊くんはモテるんだなあ。
そしてハッキリと好き!と言っちゃうのは純粋な子どもだから。すごいなあ。
「困ったなあ。インフォメーションセンターに連れて行こうか」
私も湊くんと一緒に行こうとするけれど、女の子は私をにらみ、湊くんから離れない。
「ごめん、稲荷さん。僕、この子連れて行くね」
女の子は私にあっかんべーをして、そのまま湊くんと歩いていく。な、なんかムカつく・・。
湊くんを見送ったあと、おみやげコーナーを色々と見てみる。
「おそろいのおみやげ、どうしようかな」
色々と眺めてみるけれど、湊くんが好きなものって・・。なんなんだろう。
湊くんに色々してもらったけれど、まだ湊くんのこと、分かってないんだな。
そう思うと、少しだけ落ち込んでしまった。