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星空の解放日 麦星すばる

星座の力

「稲荷ちゃん、最近お勉強熱心みたいだけど、 星座の力を持つものとして、忘れていることがあるんじゃない?」 めりの先輩が羊の上に乗って私を見下ろしている。 「忘れている、こと?」 「稲荷ちゃん、星座の力についてどこまで理解してる? まさか力に目覚めてからテキトーに使ってるんじゃないでしょうね?」 図星で私は何も言い返せなかった。 めりの先輩は、やれやれといいながら説明をする。 「星座の力は稲荷ちゃんのおとめ座、瀬名くんのうお座や 十蟹先生のかに座、辰巳くんのへびつかい座 のように神話にまつわるといってもいい力もあるし、 神話とは関係なく、能力に目覚めた個人由来の力もある。 私のおひつじ座なんて羊こそいるけど、神話とは関係ないわ」 「私と月華のふたご座の力は、 私達が双子だからであって、それ以外の関係性は特にないと思う。 神話でも双子が協力して戦ったというけれどね。 ・・で、星座の力が使える範囲は夜の学校の中だけ。 夜といっても部活動が終わったあと、だったら問題ないみたい。 今もめりのが羊に乗ってるでしょ?」 「星座の力は図書室以外でも使えるけれど、 十蟹先生が不思議な結界を張っているから、 これがある限り、図書室以外で星座の力を使うことはできない」 星華先輩と月華先輩が補足する。 「そもそも、この力は何のためにあるものなんですか?」 「・・調べたところ、最初はみんなで困りごとを解決するために 選ばれた生徒に宿ったものがはじまりらしいわ。 けれど、星座の力を使って学園内で暴れまわったり、いじめに使う生徒、 力を求めて夜の学校をさまよう生徒が出てしまって、しばらくは星座の能力者が出ることはなかったそうよ。 ただ、私たちが入学してから星座の能力者が目覚め始めて、 稲荷ちゃん、瀬名くん、辰巳くん、星華、月華、私、それから・・退職したあの先生とかアイツも。 だから、これは星空の解放日が来るのも近いんじゃないかって」 「星空の解放日?閉じ込められている星を解放すると・・っていう?」 「そう。閉じ込められている星は、星座の力のこと。 ただ、星座の能力者が全員揃わないと意味がないって十蟹先生が言っていたわ。 十蟹先生の世代ですら全員揃わなかったそうだから。 あと、この学校をやめたり卒業すると星座の力は星に還る。 次の能力者が目覚めるまではその星座の能力者は不在となるわ。 うお座の力が二人目覚めたのは稀なケースだったみたい。 今は瀬名くんがいるからもう一人のうお座の力が目覚めることはないと思う」 「・・な、なるほどー。な、なんだか難しくなってきました」 「難しく考えすぎだよ、稲荷さん。 まずは鈴原さんたちの言うアイツをなんとかしなくちゃ」 「み、湊くん!?・・となおきくん」 横にはいつの間にか湊くんとなおきくんが立っていた。 「やれやれ、僕はおまけですかぁ。 本来この力は学園内の困りごとを解決するための力で・・。 いじめの犯人も星座の力を持っていると悪用しそうで厄介ですねえ」 「そうなのよ。それにアイツは星座の力を使いこなしている。 だから負けないように特訓をしたいの。 夜の学校なら星座の力も使える。 人数が揃っているから勝てる相手でもないし」 めりの先輩はため息をついて私を見つめる。 「特に稲荷ちゃん。あなたの力は感情の揺れが力に影響してしまうのがデメリットね。 今の稲荷ちゃんは色々抱え込んでて、特訓の前に抱え込んでいるものを解決しないといけないわね。 無理に話せとは言わないけど。 あ、スクープとかにもしないから!ほんとよ!」 色々?めりの先輩には隠し事ができない。 これは正直に話そうと口を開く。 「ありがとうございます。めりの先輩。 あの、この前気になったことがあったんですけど・・」 私はくるみちゃんと十蟹先生が話していた様子をみんなに伝えた。 月華先輩がくるみちゃんを見て怯えていたことも。 するとめりの先輩と星華先輩、月華先輩は困った顔をしていた。 「あーなるほど。くるみちゃんね。 これは言っていいのかしら・・。でも・・」 めりの先輩は月華先輩を見て目で合図する。 月華先輩はうなづく。 「ごめんね。ほのか。 悪く思わないでほしいけれど。私をいじめた犯人は、|古坂桃羽《こさかももは》よ」 古坂?古坂ってことはくるみちゃんのお姉さん・・? お姉さんがいるってくるみちゃん話してたっけ? 「古坂?稲荷さん、古坂さんにお姉さんがいるなんて聞いたことあった?」 「ううん、小学生の頃から聞いたことなかったよ」 「そうでしょうね。あの姉妹は仲が悪いから。 特に桃羽は最初優しかったけれど、何かの拍子でおかしくなって、荒れていったわ。 それが月華へのいじめにもつながった。ちなみに星座の力はしし座よ。 自分の力の強さもそうだけど、その力を周りの仲間にも与えて従わせているわ。 だからこっちに星座の能力者が揃っていても、勝ち目がないってわけ。 そして名前を伏せていたのは月華が思い出してしまうからよ」 月華先輩は申し訳無さそうに下を向いている。 それを星華先輩が支えている。 「特訓は夜になってしまうから、帰りが遅いと怒られる 稲荷ちゃんと辰巳くんは無理にとは言わないわ。 稲荷ちゃんは特訓の前に 今抱えているもやもやを全部なんとかしなさい! それが一番の課題よ。それじゃあ今日は解散!」 めりの先輩が乗っていた羊がぽんと消えて、めりの先輩が着地する。 そのあとすぐに星華先輩と月華先輩のもとへ駆け寄って三人で帰っていった。 私達も帰る準備をして校舎を出る。 「いやあ、参りましたね。 星座の力を分け与えて仲間を作っているなんて。 これじゃあ組とか軍みたいな存在と戦うようなものじゃないですか。 他にも星座の力に目覚める方がいらっしゃればいいんですけど」 「なおきくん、もしかしたら相手の仲間に 他の星座の力を持った人がいるかもしれない。油断できないね」 「そんなあ」 湊くんとなおきくんが二人で話している。 けれど、頭に入ってこない。 くるみちゃんにお姉さんがいて、そのお姉さんがいじめの犯人で星座の能力者だったなんて。 どうしてくるみちゃんは話してくれなかったんだろう。 「稲荷さん、古坂さんのこと、ショックだと思う。 お姉さんが犯人だったこと、古坂さんが話してくれなかったこと。 でもそれは本人には言わないほうがいいよ」 「・・そう、だよね。くるみちゃんにも話せない事情があったんだよね」 「ほのかさんは優しいですから、あまり深刻に考えないように。 周りのみなさんも悲しい気持ちになってしまいますよ。ほのかさんだけが抱え込む必要はないんです。 僕たち仲間ですからね、いつでも頼ってください!」 なおきくんが私に話すとなぜか湊くんがなおきくんの頬を軽くつねっている。 歩いていくと分かれ道になり、なおきくんは帰っていった。 なおきくんの姿が見えなくなってから湊くんがつぶやく。 「稲荷さん、感情の揺れはもしかたら僕のせいだよね。ごめん」 「そ、そんなことないよ! お勉強会楽しかったし、小テストも頑張ったよ、ありがとう」 「僕は稲荷さんを困らせようとしたわけじゃないんだ。 あのとき助けてくれたから、できることはなんでもしたいなって思っただけだった。 色々準備しているうちに、稲荷さんの・・ごめん、なんでもない」 「? 別に困ってないよ、大丈夫だけど、大丈夫じゃないような、だいじょう・・」 「ほら、大丈夫じゃない。きっと大河にも二人きりで出かけようって誘われたんだろう。 大河は僕よりも稲荷さんのこと見てきてるし、最近お祭りの準備で稲荷さんとは話せてないでしょ。 それに僕は稲荷さんと大河がどんな答えを出しても怒ったりしないから」 湊くんは何でもお見通しだ。 正直に夏祭りのことを話したら「楽しんできてね」と笑顔で言ってくれた。 でも湊くん、何か言いかけてた。何を言おうとしたんだろう。 「あ、僕こっちだから、それじゃあまたね。稲荷さん」 「う、うん。またね!湊くん」 先輩たちに話は聞いてもらったけれど、湊くんと大河がどうして私なのか? という思いについてはどうしても分からなかった。 どうして私なんだろう?という疑問のループがずっと続いて、この日はあまり眠れなかった。