星空の解放日
麦星すばる
気になる気持ち
今、私の部屋は大変なことになっています。
「なあ、湊。ここの問題の解き方のコツとかある?」
「ああ、この問題は難しく考えなければすぐ解けるよ。えっと・・」
「いなほちゃん!聞いてますの?1600年に起きた戦いの名前は?」
そう、私の部屋には湊くん、大河、くるみちゃんが来ているのです。
お勉強会で。くるみちゃんがすごく燃えていて、湊くんよりもうまく教えるんだ
って意気込んで湊くんもまんざらではない様子。
喧嘩はしてほしくないけれど、どうなっちゃうんだろう。
「せーきーがーはーらーの戦いですわ!
もう、今日のいなほちゃんボーっとしすぎですわ。
このままじゃ私が教えた歴史より
瀬名くんが教えてる数学の得点が上がってしまいますわ・・・」
「まあまあ、古坂。そんなに熱くなるなって。
勉強が苦手なほのかがこれだけ頑張ってるんだから、
そんな勝負みたいにならなくても・・」
「私にとっては真剣勝負ですの!」
大河は熱くなっているくるみちゃんを
フォローするつもりで話しかけたみたいだけど、
火に油を注ぐってこういうこと・・・かな。
「ほら、大河も勉強するんだろ。続き続き」
湊くんに言われ、大河はへーいと言って湊くんの方へ視線を向ける。
そうか。湊くんと大河はお互い呼び捨てなんだっけ。
なんだか新鮮。くるみちゃんが小声で話しかけてくる。
「いなほちゃん、そんなに瀬名くんのことが気になりますの?」
「え、えっと・・大河のこと、呼び捨てにしてたから新鮮だなって。」
「いなほちゃんが瀬名くんを見る姿は、まるで恋する乙女に見えますわ。」
耳元でくるみちゃんにささやかれて思わず顔が真っ赤になってしまう。
そのままくるみちゃんは私の手を握る。
「でも、負けられないのですわ。
いなほちゃん、次の問題を解きましょうか」
顔が真っ赤な私は問題を解く余裕なんてなく、
何が起きたかわからないまま、くるみちゃんとの勉強は終わった。
次はくるみちゃんが大河、湊くんが私に教えることになる・・んだけど、心の準備ができてない。
「どうしたの?稲荷さん。もしかして、熱でもある?」
「う、ううん。大丈夫だよ。ありがとう」
「この間の勉強会でも一度覚えたらコツを掴めてたし、大丈夫。頑張ろう」
落ち着こうと思うほど落ち着かない。
さっき、くるみちゃんに恋する乙女、なんて言われたから、近くに湊くんがいるだけですごくドキドキする。
大河とくるみちゃんもなにか話してるみたいだけれど、今はそれどころじゃない。
「大河くん。・・やっぱりそうですわ」
「やっぱり、って何が?」
「いなほちゃんは瀬名くんのことが・・」
「・・本人が言わなきゃ、そうとは限らないだろ。それ以上はやめとけって」
「悔しくないんですの?」
「別に。もしそうだとしても、ほのかが選んだなら仕方ない」
「私は・・」
扉をノックする音がする。
お母さんがおやつ置いておくからねと言い残し階段を降りていった。
扉を開けると、人数分の飲み物とおやつが置いてあった。
ドキドキしていたけれど、少しだけ楽になった。私は飲み物とおやつを机に並べる。
「みんな、食べよ!」
明るく振る舞ったけれど、湊くんが真っ先に駆けつけてハンカチで私の汗を拭く。
「稲荷さん、早く飲み物飲んで!」
「み、湊くん!?ごめん!」
それを見ていたくるみちゃんがまた大河になにか言っている。
「本当に悔しくないんですの?」
「・・何が言いたいんだ?」
「私はもう耐えられませんわ。
いなほちゃんが大河くん以外の人と一緒にいるところなんて。」
なにか言い終わったあと、くるみちゃんはにっこりとして
「いなほちゃんったら」と言って私の頭を撫でている。
湊くんは表情を変えてくるみちゃんを見ている。
あのときに見せた冷たい表情で。
「ねえ。古坂さん。稲荷さんになにか言っただろ。
汗もすごかったし、息苦しそうだった。何を言ったの」
「勉強に関すること以外は何も言っていませんわ」
「・・湊。やめとけ」
「大河。稲荷さんは体調を崩しかけたんだよ。
・・稲荷さん本当に古坂さんから何も言われてない?」
湊くんは心配そうに私を見つめる。
でもさっき言われたことは湊くんや大河の前では恥ずかしくて言えない。
私は明るく笑ってみせた。
「ううん。お勉強の話。だから大丈夫。ありがとう」
「ほのか、無理すんなよ。熱でも出されたら心配だ」
「だから大丈夫だって!大河は心配性だなあ」
ドキドキしただけで、食欲がなかったわけではなかったから、
みんなといっしょにおやつを食べた。
でも、なんだか気まずい空気になっちゃった。
私のせい・・だよね?
「あ、あの、ごめん。雰囲気悪くしちゃって」
「稲荷さんは悪くないよ」
湊くんは優しく言ってくれたけど、その後すぐにくるみちゃんを見ていた。
さっきの話、聞かれていたのかな。
もしそうだったらどうしよう。
私がそんな風に湊くんを見ていたとして、そ
のことが湊くんに知られたら、やっぱり嫌われちゃうのかな。
気を取り直して、お勉強会再開。
あっという間に窓から夕日が差し込む。
「そろそろ、お暇しますわね。今日はありがとうございました。
いなほちゃん、張り切りすぎちゃってごめんなさい」
「ほのか、今日は楽しかったぜ。また明日な」
「稲荷さん、お疲れ様。今日はゆっくり休んでね」
みんなを見送って、長い勉強会は終わった。
なんだか疲れたなあ。
私はすぐに自分の部屋に戻り、ベッドに潜り込む。
「もーーー!! くるみちゃんにあんな言葉、
言われちゃったら集中できないじゃない!」
思わず布団の中で叫んでしまった。
恋なんて、誰かを好きだなんて、分からないよ。
湊くんを取り巻く女の子たちの気持ちは分かるけど・・。
やっぱり、これが恋なの?
この間、湊くんに手を握られたときもドキドキした。
ということは、私・・。
「ほのか、ちょっといいか?」
大河の声がする。
私の部屋と大河の部屋は隣り合わせで
窓から声をかけられればすぐに気づく。
大河の声で我に返った私は窓を開ける。
「どうしたの?大河。」
「今日はありがとな。体調は大丈夫か?」
「ちょっと横になったら楽になったよ、心配かけてごめんね」
「じゃあよかった。あのさ、古坂のこと悪く言わないでほしいんだ。
昔、俺とほのかで古坂を助けたことがあっただろ?
それ以来、俺たちを慕ってくれていて同じ進路にして。
だから張り切りすぎてるだけで悪いやつじゃない、と思う」
大河がどうしてくるみちゃんのことを言っているんだろう。
「大河、思うってどういうこと?なんでハッキリ言わないの?」
「えっと・・それは・・。
でも、それ以上にハッキリ言いたいのは、ほのかと夏祭りに行きたいなって。
昔はよく行ってたけど、行かなくなって。
うちも夏祭りの準備に関わってるから、よかったらどうだ?
テスト明けだし」
夏祭り・・?
えっと、もしテストの点数がよかったら
湊くんともお約束が入るんだよね・・。
私は壁に飾っているカレンダーをこっそり見て、夏祭りの日付を確認する。
「うん、大丈夫。久々の夏祭り、楽しみ」
「よかった。じゃ、今日はゆっくり休めよ」
大河は窓を閉めた。私も窓を閉めてその後はベッドで横になった。
「これで、よかったのかな・・?
いやいや、今は小テストに集中しなくちゃ!
せっかく、湊くんとくるみちゃんが教えてくれたもんね。
ふたりの勝ち負けとか関係なく教えてくれてありがとうの気持ちで臨まなくちゃ!」
眠れないかと思ったけれど、疲れであっという間に眠りに落ちていた。
小テスト当日。
誰にも会わないように早めに家を出た。
そんな私を見て、大河もくるみちゃんもびっくりしていた。
湊くんは取り巻きに囲まれていてお話する時間はなかった。
いよいよ、小テストがはじまる。緊張してきた。