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星空の解放日 麦星すばる

噂話と噂の生徒

—キーンコーンカーンコーン・・・ 「まずい!!!」 さっき、ギャル相手に口論なんかしちゃうから本当に遅刻しちゃうよー!! 私は、|稲荷《いなり》のほのか。私立|星ノ川学園《ほしのかわがくえん》・|文学部《ぶんがくぶ》1年生。ショートヘアで鈴が垂れているカチューシャがトレードマーク。和服が好きだから、制服も着物っぽいアレンジにしているよ! |大河《たいが》からはそれハンテンじゃね?って突っ込まれているけれどね。 ・・・っと、遅刻を回避するためには・・・。 私は、教室の窓の近くにある木に登った。私が手を合わせると、くるみちゃんが渋い顔をしながら窓を開けてくれた。そこにジャンプ!! 「ふう・・間に合った!!ありがと、くるみちゃん!」 「ぎ、ギリギリ間に合って、良かったですわ。いなほちゃん」 ホッとしたような顔で私を見ているのは、|古坂《こさか》くるみちゃん。私の大親友。舞踊の家系で踊りや着物に詳しくて、私の先生でもあるんだ!スイッチが入るとおしゃべりになっちゃうんだけどね。なにかに夢中になれるくるみちゃんは素敵。 「ほのか!!」 冷や汗をかいてこちらを見つめるのは|七木大河《ななきたいが》。私の幼馴染。最近背が伸びて、すっかり大人になったような。それでもお面をつけて授業受けるのはどうかと思・・・ 「うしろ!!!」 もー、またまたおじいちゃんから教わったギャグを・・・と思ったけど、ヒヤッとする。後ろを振り向くと・・。 「おはよう、|稲荷《いなり》さん。今日も元気いっぱいでなによりだわ」 満面の笑みで|島香海音《しまかうみ》先生が私の後ろに立っていた。 「う、うみせんせー・・おはよ、ござい、ま、す」 「あのね! 入学してからずっと同じことを言っているわよね? 木に登って登校しないで!と。何度も同じことを言わせないで」 「は、はい、すみません」 私、|島香《しまか》先生、ちょっと、いや、けっこう、苦手、かも。美人だとは思うけれど、きれいな花にはトゲがあるってこういうことなんだな・・っていつも思う。 私と|島香《しまか》先生のやり取りを見て、くすくす笑う子もいれば、|島香《しまか》先生が怖くて、ビクビクしている子もいた。さすがにやりすぎた。これだったら普通に遅刻したほうが良かったな。 「・・・では、気持ちを切り替えて授業を始めます」 さっきとは違って穏やかな声で|島香《しまか》先生は言う。私、やっぱり嫌われているのかな。木登りばっかりしているから?そんなもやもやで、噂話のことはすっかり飛んでいってしまった。 —お昼休み 私、くるみちゃん、|大河《たいが》は、屋上に繋がる階段でお弁当を広げて食べていた。 「ったく、もう少し早く起きろっつの! 俺、ほのかの家に寄ったんだけど、起きてないのよって、ほのかのお母さん困った顔してたぞ」 「あはは、それはどうもどうも・・」 |大河《たいが》と私はお隣さん同士でもあるんだ。一緒に登校することも多いんだけど、今日は私が寝坊したから、大河は先に登校していた、というわけ。 「もう、いなほちゃん。怪我をされないか、毎回心配してしまいますわ。いなほちゃんの運動能力はすごいのですが、いのちほど大切なものはありませんからね」 「くるみちゃん、ごめんなさい」 普段の会話ができて、私はすごく安心した。そして、自分のこともみんなのことももっと大切にしなくちゃと思った。 「あのさ・・。通学途中でまた聞いたんだ。あの噂話」 「ああ、|星ノ川学園《ほしのかわがくえん》に閉じ込められている星を解放すれば不思議なことが起こる。ってやつか?」 「夜に学園をウロウロする生徒さんもいて、困っていると聞きますわよね」 「ちょっと調べてみない?・・やっぱり気になる」 「噂だろ、作り話かもしれないぞ? 夜に学校の出入りなんかしたら、大変なことになるだろ?」 「私は、面白そう!と思いますけれど、ばあやが止めるでしょうね」 ・・そうだよね。みんな家族がいるんだもんね。心配かけたくないよね。 しょんぼりとしていたとき、大河が、うーん・・と考えながら口を開く。 「でも、俺、気になることがあって。|天文部《てんもんぶ》の|瀬名湊《せなみなと》っているだろ? あいつ、夜に学校をウロウロしているらしいんだ」 「え!? |湊《みなと》くん!? |湊《みなと》くん!?」 私は目を輝かせていた。だって、|瀬名湊《せなみなと》くんって|天文部《てんもんぶ》所属。 天文部というのは、その名の通り天体の授業や理科系に特化した学部だよ。 |湊《みなと》くんはカッコよくて、穏やかで、すっごく素敵で、見ていて・・・。 「あ、ほのか。知ってるなら話が早い。お前、夜の学校に行って、|湊《みなと》が何やってきてるか見に行ってくれないか? 俺心配なんだよ」 「心配?どうして|大河《たいが》が|湊《みなと》くんを心配するの? というかなんで|湊《みなと》くんを呼び捨て?」 「ほのか、言ってなかったっけ?俺と|湊《みなと》は小学生の頃やってた習い事が一緒だったから顔見知りというか、友達、だからさ・・」 「えーーーーーーーっ!?」 私は思わず大きな声で叫ぶ。それを横で見ていたくるみちゃんはクスクスと笑っている。 「こんなに大きな声を出せるなら、朝のことは吹っ切れているようですわね。良かった」 「で、ほのか。調査してみるのか?」 「うん。調べてみる。夜の学校に湊《みなと》くんがいたらお父さんもお母さんも心配しちゃうよね」 「鈴は外したほうがいいんじゃないのか?」 「・・・テープで止めるもん!」 |湊《みなと》くんは天文部。文学部と天文部は校舎が別々になっていて、渡り廊下でつながっている。合同授業もあんまりないし、最近会えないんだよなあ。 |大河《たいが》から|湊《みなと》くんの特徴や性格を教えてもらった。 私が知っている|湊《みなと》くんって、外からのイメージでしかないんだと実感した。 私、|湊《みなと》くんのこと、知らないんだ。|大河《たいが》よりも知らないんだ。 それも含めて、調査、か。 —下校の時間 私は、たまたま|湊《みなと》くんを見かけた。 女の子に囲まれていて、歩きづらそうにしている|湊《みなと》くん。けれど、歩きづらさは顔に出しておらず、穏やかな顔色を維持している。 深海のような瞳に、水の色みたいな髪。 遠くから見れば、男の子なのか女の子か分からなくなるような中性的な容姿。文武両道で、弓道部に所属している。 「|湊《みなと》さん、今日もお疲れ様です!!」 「|瀬名《せな》さん、今日もかっこよかったです!!」 |湊《みなと》くんを取り巻く女の子たちが、必死に声をかけている。 |湊《みなと》くんは女の子たちの方を見ず、上の空になっている様子でゆっくり歩いている。 |湊《みなと》くんはか細い声でつぶやいた。 「・・・えっと。なにか言った?」 「い、いえ! お疲れのところすみません。また明日!」 取り巻く女の子たちは道を開けて去っていく。 湊くんは、さっきと変わらずゆっくり歩いていった。 「・・|湊《みなと》くん。登校から下校までずっと誰かと一緒にいるもんな。さっきの|湊《みなと》くん、疲れてるって感じがしたな」 私はため息混じりでつぶやいた。疲れている|湊《みなと》くんに対し、周りの女の子たちは、クール、カッコいい、ミステリアス、守ってあげたい、なんて言うんだ。 私もカッコよくて可愛い、カッコ可愛い!なんて言ってはしゃいでいたけれど、|湊《みなと》くんにとっては、迷惑だよね。疲れている|湊《みなと》くんを見て、はしゃぐなんてできないよ。 弓道をしているときの|湊《みなと》くんはカッコいいし、穏やかに本を読んでいる姿は吸い込まれそうになる。 |湊《みなと》くんは一人のほうが好きなのかな・・? 校門の裏に隠れて、ずっとくんを見ていた私。 頭がボーッとして、通りすがる|湊《みなと》くんに気付かなかった。 チリン! 鈴がひとつ、|湊《みなと》くんにぶつかる。 「わ!ごめんなさい!」 「ううん。鈴のついたカチューシャって珍しいね」 「うん! おばあちゃんが作ってくれたの・・って|湊《みなと》くん!?」 話しかけやすい雰囲気につられ、気づいたら自分のことを話してしまった。 その様子を見て、|湊《みなと》くんは笑顔を浮かべる。 「君、面白いね?」 「おも、おも、おもしろ・・・?」 「名前は?」 「えっと、|稲荷《いなり》ほのか! 文学部1年!」 「|稲荷《いなり》さんか。|大河《たいが》から聞いた通りの人だ」 私は|大河《たいが》!?と叫びそうになったけれど、グッとこらえた。 「なんで喋るのをこらえようとするの? 喋りたければ喋ればいいのに」 「だって、|湊《みなと》くん。さっき、色んな子に声かけられて疲れてたじゃん?」 「・・そうか、分かる人には分かるか」 |湊《みなと》くんは夕日に染まる空を見上げる。 「僕はね、気にかけてもらえるのはありがたいよ。人といるのも嫌いじゃない。 けど、僕を独占しようとしたり、束縛されるのは嫌いだ。 あの空のように、自由になりたいと思う時があるんだ。 水槽で泳ぐよりも川や海で泳ぎたい魚のように」 あ、ごめん。と言って|湊《みなと》くんは私に顔を向ける。 「ううん、気にしないで! ぶつかった私が悪いんだし。またお話しようね。湊くん」 湊くんは頷き、それじゃまたと言って歩き出した。 「—雲のように、おだやかに過ごせたらどんなにいいだろう」